寮の部屋の都合上だかなんだか知らないが…一人部屋でなくなったのが、二年になったときだった。
最初は、最悪だと思った。
「明日はリクエスト日…なんだがなぁ」
冷蔵庫にはり付けられたカレンダー。
土曜には丸がついている日と、ついていない日がある。丸がついている日はラッキーデイ。
冷蔵庫、冷凍庫、野菜室…とにかく扉という扉をあけてホワイトボードを見つけると、そこに、杏仁豆腐と明記する。
こうすれば日曜には杏仁豆腐が食べられるはずだ。
俺の部屋が特別そういうサービスをしているわけではない。
このサービスは、同室者が面白半分でやってくれていることなのだ。
俺は無類の甘党だ。
甘党だが、甘いものを食べる俺…というのは人から見ても、自分からしても、なんとも違和感を感じる光景だ。
辛いものが食べられないわけでもないし、苦いものが苦手だということもないが、こぞって人は俺の前から甘いものを遠ざけ、無糖のコーヒーをおき、辛味の利いた食物をおきたがる。
正直俺も、甘いものなんて見たくもないとミエをはっているため、一人でいるときしか甘いものは食べられない。
だから、同室者ができると知ったとき、最悪だと思った。
部屋は厳密に言えば別れているが、キッチンスペースは共同。
俺が小さい冷蔵庫でも買わないかぎり、冷蔵庫も共同。
ケーキもゼリーもプリンもアイスも、そこにいれなければならない。
つまり、ばれる。
それはごめんこうむりたかったわけだ。
だが、それ以上に甘いものが食べられない生活ってのは耐えられるものじゃなく…
つい、冷蔵庫を手に入れる前に、共同の冷蔵庫にプリンを入れてしまったのだ。
肝が冷えた。
だが、そこにプリンを入れたからといって何の問題もないことに、ふと気付く。
同室者ができて二週間。
一度もそいつと会ったことはなかったのだ。
いる、ということは知っていた。生活する音がするのだから。
しかし、いささかそいつと俺の体内時計はずれているらしく、一度も。
そう、一度も会ったことはなかった。
ネームプレートを見れば誰が同室者かわかる。なんてことも、この特殊な学校では有り得なかった。
諸事情により誰の部屋かばれることをよしとしていないからだ。
つまり、俺は同室者の名前を知らず、同室者も俺の名前を知らない。
だから、共同スペースで遭遇しないかぎりはなんてことはない。
気付いた日の俺は、お取り寄せ注文をためらわなかった。
取り寄せた品が寝坊して、同室者がうけとってくれるまで、甘党の俺は本当に同室者と接点がなかった。
冷蔵庫のなかですらわかるきれいな艶のかったチーズケーキがのった皿を持って、自室にむかうと、俺はチーズケーキを下に敷かれた紙ごとつかむ。
ケーキをつぶすことなく手でもって、三角の尖ったところからがっつく。
行儀のいい行為ではないが、一人で食べている特権だ。好きなように食う。
「あー…うめぇ…」
頬がゆるむのは仕方がない。
そうして食ったチーズケーキの感想を冷蔵庫にいれたままのホワイトボードに書き込む。
うまかった
感想はいつも簡潔だが、作ってくれている同室者はそれでいいらしい。
そう、同室者は俺の食べる甘味を作ってくれている。
同室者がお取り寄せ品を受け取った日、同室者が一つ食ったプリンの代わりに置いてくれたタルトタタン。
うまくて、ひどく感動したのを覚えている。
あの日から、俺の買った品を食っては代わりにおいてくれるデザートが楽しみになった。
それが手作りであると知ったのは、プリンとゼリーが入った容器だった。
毎回、青い、微妙な容器に入っていることから推測したのだ。
そして俺はちょっとした悪戯ごころで、くだものを入れる場所にショートケーキというリクエストをかいてメモをいれたのだ。
相手にも都合がある。毎回かなえられることはなかったが、リクエストをかくたび、冷蔵庫に隠すように入れていた。
するとあちらも考えたのか、都合のいいときにホワイトボードを冷蔵庫に隠すようになった。
俺はそれが楽しみになった。
そうして今の形が出来上がってからも、俺も同室者も、未だ顔をあわせていない。
俺はそれでよかったし、それが楽しくもあるのだから、それでいい。
しかし、その関係が脆くも崩れ去る日は、そう遠くなかった。