イライラしていた。
何故か繁盛してしまった喫茶店で裏方の調理班は慌て、焦りすぎて失敗をし、二名が火傷をして退場。
一番暇であるだろう俺がメインになって手伝いをし、他の連中の手際の悪さにイライラしていた。
それだけではない。
何故か数量限定で出していたシェフの気まぐれお子様ランチとシェフの気まぐれスイーツプレートが12時になる前に売り切れてしまい、しかたなくスイーツプレートだけ再販すべく作らされるハメになってしまった。
一人で黙ってイライラするのも感じが悪いうえに、余計に人のミスを誘ってしまう。
それに、ここまで手伝いをし、手際の良さを見せてしまってはごまかすのも面倒くさい。
結果、俺は、『レストランでバイトをしていた』ということにして、仕切らせてもらっている。
嘘はついていない。そんなことも昔やっていた。
だが、それでも俺のイライラは収まらない。
どこぞの野郎が『今日は晩飯だけでいい』というのが原因ではない。
俺が作ったもの以外たべないということさえ、実行していれば問題無い。
つまり、昼飯を食えなければそれでいい。あの妙に律儀な男のことだ。きっと昼飯を食えていないに違いない。
あの男が追いかけられているというのも、実はどうでもいい。友人や例の新聞部の野郎の話によると、委員長のハグを求めて奴のファンとやらがバタバタしているらしい。俺にとって、ハグだの、奴が追いかけられるだのは重要じゃない。
では何にイライラしている。
答えは簡単だ。
あの野郎を追いかけているチビッ子達の発言にイライラしている。
何も俺のいるクラスにやってきて、『委員長様かっこいい!』だの『しびれる!』だの『抱かれたい!』だの言ってくれなくていいのではないだろうか。
しかし、それらはなんら問題無い。勝手に思っておけと思う。
しかし、『今度こそ抱かれる』だの、『事故に見せかけて押し倒してその気に…』だのという言葉には、少々思うところがあった。
抱かれたいなら勝手に思っておけばいい。しかし、今度こそということは一度抱いてくださいと言ったわけで、何の自信があるのか、今度こそ抱いてもらえる、もしくは抱いてもらいたいと思っているわけだ。
そう思っている人間がどういった行動に出るか予想し、それを邪魔できない俺に腹を立てている。
その程度で、あの野郎がどうこうすることはないだろうし、どうこうしたってアレの自由だ。
俺だって勝手にする。
だが、水知らずの人間にどうにかしてやるといわれていることが我慢ならない。
事故に見せかけて押し倒すことにしたってそうだ。
その気になろうが、なるまいが関係ない。
あれをどうにかする権利は誰にもない。もちろん俺にもない。
アレにむいた感情に自覚がある俺だって、その気にさせられたのならそれに乗る。
けれど、邪魔くらいはしてやりたい。
それを実行しようとしている人間を前にして、邪魔することさえこの忙しさに出来ないでいるということに、苛立ちしか覚えない。
黙々と調理をすることによってその苛立ちを発散していたのだが、何故か次から次へとやってくる委員長狙いの人間の会話に発散しきれず苛立ちが募る。
会長が一番人気ではなかったのかと、内心、会長に八つ当たりもしたが、後々来た客の会話で会長狙いが少ない理由に気がついた。
「会長、やっぱり、高雅院様とお付き合いなさってるんだよ…」
「うう…つらい、つらいけど…お似合い、だし…」
なるほど。
大和撫子がいるという噂があっても、大和撫子の実体のない委員長は問題無いだろうということだ。
問題あることにしておけよ。