イライラしている間に、俺は一つメールを送信しておいた。
俺がいくら一匹狼という恥ずかしい名前で呼ばれていても、実際はそうではないし、学内に親しい人間もいる。
そして当然のごとく、顎で使える人間もいる。
「コレ、どうする気なんすか?」
「ちょっとした嫌がらせに使うだけだ」
言いながらも、俺はイライラする原因をさっさとなくそうと思っている。
鬼怒川が追いかけられるから、追いかけられて挙句捕まらないから延々といらぬ話を聞かされるのだ。
それならばさっさと捕まえてしまえばいいことだ。
「…本当に、委員長のこと、きらいなんすね」
舎弟といってもいい。
昔、俺に無駄に突っかかってきた中学生、次の一匹狼だと言われている名上(なじょう)から、鬼怒川を捕獲するためのカードをもらう。
スタンプカードは、あと鬼怒川のスタンプだけが空欄となっていた。
「嫌いじゃねぇけど?」
今まであえて誰も俺に聞いたことがないことを言ってしまった名上は、思わず俺が眉間に皺を寄せたことにビビリ、身体を震わせた。
俺はそれを気にせず、答えてやった。
聞かれたことがないため、答えることもなかった真実だ。
嫌いじゃない。嫌いなわけがない。
「あ、いや、すみません…」
俺が不機嫌な顔をしているせいだろう。
嫌いじゃないといっても、建前にしか聞こえなかったようだ。
嫌いじゃない。本当のことだ。
俺はもう一度いう。
「嫌いじゃねぇし、謝る必要もねぇよ。あれとはむしろ仲いいほうだ」
ため息をついたあと、カードを適当にポケットに入れ、ちゃんと答える。
名上が驚きの表情で俺を見つめる。
「憎まれ口叩くようになったのは割と最近だし、にらみ合うように見えてたのもあいつと俺が目つきワリィだけだ。無視してたのにしても、興味が無かっただけだろ。これまで殴り合ったりしてた覚えがあるか?」
「いや、でも、古城さん、もともと、ふっかけられないと…そういうこと、しねぇじゃねぇっすか」
よくわかっている。
しかし、だからこそ解るだろう。
俺が興味を示さない限りは、なんとも思ってないことくらい。
「わかってるなら、なんでそういう誤解を真に受ける」
「え、や…え?」
刷り込みというやつは意外と根強いものだ。
これ以上舎弟に用がない俺は、礼を言って持っていたサンドイッチを渡す。
「ありがたがれよ、俺のお手製だ」
「え?ええ?え?」
舎弟が理解不能になっているうちに、俺はざわざわと煩い廊下に溢れる会話を聞く。
欲しい声は委員長の情報。
文化祭のイベントだ。景品は関係なくイベントとして愉しんで探している連中も多い。あちらこちらに飛び交う情報を耳にする。
数分前、俺のクラスから出てきたのを見たという情報まである。
それはガセだろうと冗談にされているのだが、それは本物だと判断し、動き出す。
俺のクラスから人気のない場所を使って逃げるのならばある程度道は絞られる。
俺はその先にあり、休めそうな場所を思い浮かべながら、堂々と人ごみの中悠々と歩いて、そこに向かう。
俺が歩くと人は避けてくれるため、人ごみの中にあってもスピードはいつもと変わらない。
こういう時は自分自身の持った顔と雰囲気、ガタイに感謝せざるを得ない。




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