ヒサにいく連絡は、俺にも来る。
クソガキとそのツレの確保を告げるメールは、学園に残って恋人をいじめて楽しんでいた俺にもやってきていた。
俺は恋人と楽しくすることでそのメールを無視していたし、携帯はサイレントにしていたので、着信のたびに画面が光るくらいで、視界に入れなければ対して鬱陶しいものでもなかった。しかし、こうして、恋人が疲れ果てて、事後処理を終えたあと、風呂から出てきて確認すると鬱陶しい。
メールには、クソガキとそのツレ確保の一報から始まり、ヒサの鬼畜な仕様について事細かく打ち込まれたメールがズラリと並んでいた。
タッチ式でもこれだけの手間をかけてメールを送ってきているのは、この学園の理事長だ。
理事長のメールがヒサさん容赦ないで終わったあと、一つ違うメールが届いていた。理事長の秘書からのメールだ。
そこにはこうあった。
『さすがに、前途ある若者のアフターケアお願いします』
やなこった。と言いたいのを飲み込む。
疲れて寝てしまっている恋人は、少しやつれた。
クソガキが自由に振舞ってくれたおかげで胃痛をかかえ、ストレスで食事量が減っただけでなく、毎日食べづらそうにしていたためだ。
学園の食を握るものとして、恋人として、手を尽くしたが、見る間にやつれた恋人に俺も腹に据えかねていた。
だから、ヒサに泣いて縋って、もうやめてといったとしても、それはザマァみろといった出来事でしかなかった。
いつもなら、それ以上のことをやるヒサを止めるのが俺の仕事で、どんな被害を俺やその周辺にまこうと流石に哀れになって止めるのに、今回は、ヒサの恋人が止めたために、その同情心もあまり機能していない。
ヒサの恋人は、質の悪い人間だ。
ヒサの前では、その質の悪さを発揮する必要はないため、そんな姿を見かけることも少ないのだが、本人が隠していないので、見かけないことはない。
だから、ヒサを止めることもそうないことだと思う。
しかし、それでも止めたのは、クソガキが彼にとって可愛がってくれている先輩であったからに相違ない。
ヒサが、その程度の気持ちで止められたのは、かわいそうなことに一途な恋人にその怒りが向けられたからだ。
八つ当たりというやつだ。
ヒサは人格者ではない。俺が止めた場合も、俺と殴り合いの果てにそのストレスを発散する。
人格者ではないヒサがそれでも好かれるのは、沸点が低く、普段は面倒くさいと言いながら、それでも人の意思を尊重しているためだ。
その意思を尊重する行為すらも、たらしこむことで少々、ヒサの好きにしている節があるのだが、たらしこまれたらそれで幸せだから、ますますヒサにハマるだけだ。
そんなヒサにハマってしまって手遅れであるヒサの恋人…時田枢は、止めたあとにいったいどんな目にあったのかと思うと、かわいそうだなと思った。
理事長の秘書のいうアフターケアは、前途ある若者にとのことだったが、時田のことか、あのクソガキのことか、それとも両方なのかを思案して、俺は携帯画面を眺め続けた。
ヒサが何をしようと、時田なら、手をだした時点で色々な覚悟をしていると、俺は思う。
ヒサに嫌われてしまうことを何より恐る時田は、ヒサの重りになることを嫌がっていた。恋愛感情が重たいことを隠したり、ヒサの邪魔になることをしないようにしたりしていた。
それでも、先輩を庇ったのなら、覚悟の上だと思う。
それならば、アフターケアをしなければならないのは、あのクソガキだろう。
食堂に来たとき、少しばかり優しくしてやる程度でいいだろう。
変に高いプライドがへし折れたあのガキを、どう慰めたものかと考えもしたが、少し身にしみる程度のおせっかいをすればいいだろう。
それで完璧だ。
俺は携帯を机において、恋人が温めてくれているベッドに潜り込んだ。