人生というやつは何が起こるかわからない。
たとえば、幼い頃にぶち込まれた学園で帝王だの俺様だの言われ、持ち上げられ、歴代一の文武両道でこの世のものとも思えない容姿端麗で男前な支配者だの言われ続けて、何か知らない間に転校生にキラキラした目で見られるなんてこともあるかもしれない。
どうしてこんな遠くまできてしまったんだろう。
俺は高等部にあがるまえに戻りたい。
いや、わがままは言わない。
せめて、二週間くらい前に戻りたい。
「生徒会長かっけぇえ!」
言われ慣れているといったら、ナルシストだの腹がたつだの嫌味だとか色々言われるため、言うことはないが、俺は食卓に行儀悪く頬杖をついたまま、一応頷く。
「そうか」
今から二時間前、俺はもうひとりの転校生…俺を今、褒めている転校生より二週間ほどあとの、本日に転校してきた転校生に職員室まで案内していた。
「会長、ご苦労さん」
そう言って笑った転校生は、俺が呼び止めようとすると、俺の頭を撫でて何事もなかったかのように職員室の中に入ってしまった。
まるで俺が我が儘を言ったようになってしまったのが、非常に不本意だったし、無駄に男前に見えるので、少々悔しい。
いや、かなり悔しい。
「なぁなぁ!あんた、名前は?」
家庭の事情により海外なんかに行ってやがった転校生は、この中途半端な時期に、これもまた家庭の事情により帰国子女枠ではいってきた。
「国府津鳴鳥(こうづなとり)」
頬杖をついたままの俺をなじるでなく、俺のよく知らない転校生は俺に質問を続けた。
他の生徒たちは転校生の一挙一動にソワソワしていたが、転校生がする質問に素直に俺が答えるから、今や違う意味でソワソワしているようだった。
いいぞ、やれ、もっと聞け、転校生といったところだろうか。
この転校生は二週間ほどまえに、俺と同じクラスに転校してきたやつで、二週間ほど前から、少し、心ここにあらず状態だった俺にはあったことがなかったのだろう。
俺もぼんやりと毎日授業をサボって生徒会室にこもっていたので、初見だった。
二週間ほど前、実家から電話があった。
第一声が、鳴鳥、何をやったんだ?だったので、本当に一語一句忘れず覚えている。
要領を得ず、あまりにも父が慌てた様子であったから、まとめて簡単に言うと、許嫁に婚約を解消されたという話だった。
正直に言おう。
俺も何をしたかわからない。
父から電話がかかってくる一晩前には、いつもどおり夜の挨拶をして電話を切っただけなのに、いきなりの婚約解消だ。
寝耳に水、晴天の霹靂。
「恋人とかいるか?いたら、やっぱり美人だったりするか?」
「恋人はいねぇ…美人でもなかった」
「俺ってやっぱ恋人じゃなかったのか。美人ではないけど」
「恋人じゃねぇだろ。許嫁…もと、許嫁だろ…、……?」
ぼんやりしすぎていたらしい。
いつの間にか職員室で別れたはずの転校生が、俺の目の前に居た。
「あ?ハァ?」
「で、俺に聞きたいことあるんだろ、鳴鳥は」