「で、うちの弟とはどう?」
「どうってお前…どうもしねぇよ」
「……えー…どうもしてよ」
 普段は長男、三男、二人共を溺愛し、これでもかと牽制する次男が不満を漏らす様は、熊田バイクに務める店員を驚かすに値する。一度ちらっと迷惑野郎をみたあと、もう一度見返すという行為がなされた。
「おまえ、弟大事じゃねぇのかよ」
「大事だよ?でも、潤くんが七瀬のこと好きって 言うし、それもかわいいし。しかも、潤くんが七瀬キープしたら、ご飯困らないじゃない」
「飯で弟を売るな」
「潤くんが幸せじゃないと売らないね。まして、七瀬じゃなかったら、ご飯があっても売らないね」
この兄弟はどうも、俺という人間を勘違いしている。どうしてそうなるのかよくわからない。
「過大評価だろ」
「俺、潤くんはいいけど、兄貴のこと狙ってる糞教師の方が気になんだけど。アイツ事故らねぇかな、マジで」
 言葉遣いが悪くなるのは本気でイラついている証拠である。
 そして、俺の話はもうすでに聞いていない。
 どうしてこうも、この野郎は人の話を聞かないのだろうと、ふと店の奥をみると、ちょうど三男が住宅部分から下りてきて俺を見つけたところであった。
 一瞬嬉しそうな顔をした三男は俺と迷惑野郎が話している途中と判断したらしく、眉を下げ、少し迷って、俺に目礼して店の更に奥へと消えた。
 可愛らしいものだ。
「お前の弟は本当、可愛いもんだな」
「だろー!潤くん本当可愛いよ。オススメだよ!だからご飯作りに来てください」
「嫌だっつってんだろ、ほら、今月の雑誌」
 バイクのことで融通をきかせてくれた礼に、定期購読している本をとってくるのが俺の仕事と化していたため、更に三男に会う機会は増えていた。
「お、サンキュ。ところで兄貴は?」
「俺に店番を頼んでパチしに行った」
「兄貴買ったら焼肉食いに連れてってくれないかなぁ」
 もっということあるだろう。
 三男がもう一度こちらに顔を出したときは、すでに気持ち悪いほどのブラコンを発揮して俺に話してくる迷惑野郎がいた。それを発見し、三男はすまなさそうに間に入ってくれた。
 三男の救世主っぷりとしおらしさに絆されているような気がしなくもないが、それでも可愛いので仕方ないような気がしてきた昨今である。
「なぁ三男…」
「潤」
「………三男。お前の兄どうにかならないか」
「ならねぇ」
「……はぁ」
 最近、三男が俺のため息をつく姿すらうっとりと見つめてくるのはもはや末期症状なんじゃないかと思う。
 当分、三男に好感をもっていることは秘密にしておこう。

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