オレオ?



俺には気になる奴がいる。
恋人ができたら役員は降りる。いちゃいちゃするなら他でしろ仕事にならないという、とんでもない学園の伝統のせいで、同時に四人失い、俺一人になった生徒会。
仕事はきっちり終わらせてくれて、仕事の少ない時期にいなくなった彼らはちゃんと後任も用意していた。
けれどその後任たちが何故か生徒会顧問により、決め直しにされた。
なんでも俺が笑うから、一気にダメになったという。理不尽極まりない。
生徒会役員選びは難航した。
結局俺は一人で仕事をし続け、疲れていた俺に、色気たまんねぇ!と襲い掛かる阿呆。
からがら逃げてきた俺は、疲れていたし、なんだってこんなことになってんだって混乱していた。
それは泣きもするだろう。
人がいないだろう場所に駆け込んで、情けない涙を止めようとしたそこで、俺の気になるそいつはいた。
ジュースのパックを片手にポカンとオレを見上げるそいつ…風紀委員長。ずっと気になってる奴。
学園内でそいつを知らないやつはいない。
弱きを助け強きをくじく、ではないが、大抵の弱い奴の味方だ。
卑屈な奴の根性は俺様のごとくたたきなおし、ネガティブなやつをバンジー台から背中を押すがごとくそっと背中を押す。
兄貴とよばれるそいつは、兄が一人、弟が一人いる三人兄弟真ん中。
すぐ人の頭を撫でる癖があるのは、弟が小さいから。
口が悪いのは兄がヤンキーだから。
誰もが傑物だという風紀委員長は生徒にだけではなく兄弟に非常に愛されていた。
ヤンキーで男前な兄貴は何かといっては弟にかまわれたがり問題を起こす。
小さくて可愛い弟は何かといっては兄にくっついて離れず、まわりを牽制する。
兄を問答無用で殴り、蹴り、弟の頭を撫で、一言で黙らせるそいつ。果たして兄弟が弊害になっているかどうか。
一番の問題はそいつ自身。
そう、かっこよすぎ、頼りになりすぎた。
俺の頭は撫でるし、意外なことにマジックなんてするし、やっぱ、去りぎわ頭なんて撫でるし…。
生徒会室の無駄にでかい会長机。
その上のビスケットを眺めてため息。
なるほど、これは仕事にならない。
しかし俺は、机の引き出しをあけ、ビスケットをそこに戻す。
そこには派手な色のヘアピン。
「ダメだ。こんなことじゃ迷惑かけちまう」
たとえば、中学時代。
代わり映えなく風紀委員長は風紀委員長で、ネガティブな生徒の背中を、没収したばっかりのヘアピン一つ付けて渡して、バンジー台というより清水の舞台から押したとして。
その生徒が、風紀委員長に憧れ、好きになってしまったっておかしくはない。
その生徒はそれから二年ほど風紀委員長に服装等で追い掛けられ、そいつに相応しい人間になって、告白しようと思いたって、急にイメチェンしても、いいだろう?
生徒会長になんかなってしまって、告白どころではなくなってしまうだなんて、思いもしないだろ?
迷惑はかけたくないんだ。
だから俺は気になるということにしているのだ。
「会いてぇなぁ…」
つぶやいたところであえるわけでもなし。
俺は風紀委員会室いきの書類をさがしはじめる。
生徒会長なんてなるもんじゃねぇなと思いながら。

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