ビスケット!2
兄がとんでもない迷惑をかけているときいて、俺は生徒会室に駆け込んだ。
生徒会室にはいつの間にか生徒会副会長に収まった弟と、襲撃しただろう兄の腕を後ろ手に回し、組み伏せる生徒会長の三人がいた。
俺は、大きく息を吐いて兄に言ってやる。
「ヤンキー弱ッ」
「ちげぇ!こいつがつえぇんだよ!」
弟の目がキラキラと輝いていることから、兄のいうことは間違っていないのだろうと推測できる。
眉を八の字にして困っている会長に、俺は心から頭を下げた。
「すまん!兄が迷惑をかけた」
「あ、いや…」
「ホントだよ、最悪だよ、これだからヤンキーは」
「いや、いい運動には、なったから」
困った顔をしてはいるものの、さほど迷惑には思っていないという意思表示をする生徒会長に、俺はため息をつく。
なんと寛容な男なのだろう。
「そんなことだから、次から次へと惚れられるんだ」
文句なんていう方がおかしい状況なのだが、思わず言葉が漏れた。
「次から次に惚れられてなんかねぇよ」
『魔性』と懸想されることについては、いつも嫌がる生徒会長を少し可愛く思いつつ、兄を回収しようと近づいて、俺は気がつく。
俺は会長にさらに近づき、顎を指であげる。
「なん…、近ッ」
「唇ざっくりやっちまってる」
「あー一発は入ったんだわ、不意打ちで」
会長の下から聞こえる声に眉間に皺が寄る。
この男前の顔に傷つけてどうするんだというか殴るなら見えないところだろ。
少し動揺した。おかげで会長の怪我について、見当違いなことを考えてしまった。
「会長、手当するから、風紀委員室まで一緒に来てくれないか?」
「あ、ああ。行くから…、指…あと、近い」
「ああ、悪い」
俺は会長から離れると、兄を会長から受け取る。
「さて、兄貴はどうしてやろうか」
「は?」
「きっついお仕置きしちゃえばいいんだよ!」
ちゃちゃをいれてくる弟は先ほどまで、キラキラしていた目をいっそう輝かせ、うっとりとしていたが、兄のことを俺が言った途端にいつも通りに戻った。
何を期待しているのかは知らないが、あまりキラキラした目で見つめないで貰いたい。
会長は少しの間ぼんやりしたあと、制服のホコリを払って、唇の血を指で拭っていた。
指についた血をみて眉間に皺を寄せたあと、もう一度唇を拭おうとした手を掴んで止めさせる。
「あまり擦るのもよくねぇから」
少し赤くなったのは、どういうことなのか。
聞かない方が親切なのだろう。
可愛いなぁ…となんとなく思って、俺は兄を引っ張り、生徒会長を後ろに、風紀委員室に向かった。
「兄さんとお兄様…眼福…」
弟が何か言っていたのは…聞こえなかった。
たぶん。
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