オレオ?4



風紀委員長はアニキと言われることを嫌がる。
これにはわけがある。
「貴様か!アニキをたぶらかしてんのは!」
「たぶらかしてねぇよ!」
「僕は正直、たぶらかして欲しいです」
アニキアニキと付きまとわれ、それらしい行動を起こしてしまったがために、誰もにアニキ認識され、結果、何故か友人らしい友人ができないという事態に陥ったためだ。
「は!?姐さん!」
「いや、姐さんとか何バカいってんの?性別間違えないでくれる?いくら僕が可愛くてもないからね?男だから。どう見たって男だから。コロスゾッ」
うちの副会長は可愛い顔をして、言うことは言う。
副会長がウインクまでして殺意を表したせいで、副会長を見ていた乱入者は背筋を伸ばして固まった。
副会長は本人の言うとおり、可愛らしい外見をしている。しかし、それは男として可愛いといえる外見だ。けして女らしいわけではない。
「まだあいつのことつけまわしてんのか、てめぇは」
「黙れ、短小!」
「短くもねぇし、小さくもねぇよ」
むきにならないあたりが真実を物語っているようである。
会計は珍しいことに大人しくエクセルで表を作っていた。
「つーか、まずそこに思い当たるってことは、てめぇは、短くて小さくて、皮もかぶってんじゃねぇの?」
先日の変質者に対応する副会長である弟といい、繊細な問題をサラッといってしまう兄といい、まさに、兄弟だ。
「な……ッ」
「だいたいなぁ……うちの可愛い弟は、てめぇのせぇで友人らしい友人が今もできてねぇってのに」
「だよね、兄さん、今も友人らしい友人いないよね」
風紀委員長をアニキアニキとつきまとい、風紀委員会から出入り禁止までくらってしまった男はがくりと項垂れた。
「ちがう…!ほかの連中の程度が低すぎて、アニキに見合わないだけだ……!」
「これだから、モノだけじゃなくてケツの穴も小さいやつは」
この学園にいて、ケツの穴の話までされては洒落にならない。
俺は、やんわりと笑って誤魔化す。
「風紀委員長がぼっちの原因の一つではあるが、あれは、本人がそんなに必要としていないのもあると思うんだが」
「アニキかっこいい…!ひとりでもいいのか…!」
そういうことではないだろう。
口を開く前に、生徒会室の扉が開いた。
「よぉ。なんか、俺の事ボッチ扱いしたか?」
「気のせいじゃないか?」
俺もサラッと嘘をついて、首をゆるく振る。
「確かに、そんなに真に迫って欲しいとか思ってないというか、一応友人のようなものはあるんだから、そのうち友人になるだろうなとは思って、呑気に構えてるだけってのもあってな」
「ああ、だから、余裕ぶっているのか」
俺は書類にサインをして、判を押すと、迷うことなく俺のいる場所にやってきた風紀委員長に書類を渡した。
「もう体育祭か」
「面倒な時期がやってきたと思っているだろう」
「そうだな。何を盛ることがあるかしらねぇけど、お盛んだからな」
成程、あの兄弟の真ん中だなと思われる発言をした風紀委員長は、俺の机の上に持ってきた書類を置くと、首を傾げた。
「なんだ、生徒会、今年は仮装しねぇのか?」
「これを決めた時人数がいなかったし、俺が仮装するのは、他人の迷惑だと顧問が……」
「ああ、確かにお前が仮装するのは迷惑だな。何人が倒れて保健室を使い、トイレに駆け込むことか……」
「倒れねぇし、駆け込みもしねぇ……しねぇよ……」
実際のところ、去年は、第一保健室を満室にし、トイレに駆け込む生徒もいたのだが、俺の目には何も映らなかったし、耳には聞こえなかった。何も感じることはなかった。
ことにしたい。
「去年、ただの学ランでしたっけ」
「そうだが」
「兄さんが短ランだったよね」
「そうだな」
「誰もが避ける立派なヤンキーだったぞ」
「黙れ」
どうも、この兄弟といい、アニキ至上主義のやつといい、うちの会計にはあまり優しくないようだ。
「アニキの短ランチョー痺れたっす」
「……ああ、いたっけ」
そして、この兄弟はアニキ野郎についてあまりあたたかい対応はしないつもりらしい。
すっかり三人の態度にしょげてしまったアニキ野郎に、俺は苦笑する。
「三人とも、そんなに冷たくしなくても」
「……!」
すっかりうなだれてしまっていたアニキ野郎は顔をパッと上げ、俺をみて呟いた。
「……天使!」
なんだろう、こんなことが少し前にもなかったか。

next/ iroiro-top