オレオ?6



補佐をそろそろ引き抜こうかと話していた矢先、生徒会室に後輩というものは殴りこんでくるものらしい。
俺はいつもの定位置で黙って座っていた。
「なんつか、超絶かっこいい上に可愛い俺様がどうしてこんな仕打ちを受けねばならんのだ?」
すっかり生徒会室の弄られ役として定着してしまったアニキ野郎が両腕で腰をホールドし、そのまま殴りこんできた後輩とソファに座っている。
「ハァ? かっこかわいいエンジェルは会長だろ!」
俺こそハァ? といいたいところだ。アニキ野郎はすっかり俺をエンジェルというようになっていた。このままでは風紀委員長の二の舞で俺が全学園生にエンジェルといわれる日が来てしまうかもしれない。俺は寒気が止まらず、腕をさする。
「何いってんだ、俺様は天使ごときでおさまる器じゃねぇんだよ。神だ」
「うわー……俺様、何様、神様だ。しんせーん。兄さんですら兄さんで会長すら天使でお兄様なのに」
副会長である風紀委員長の弟君まで天使というのはやめて欲しい。お兄様というのも何か痒い気分だが、いったい俺のどこに天使を見ているのだろう。俺は難しい顔をするしかない。
「うるせぇ、そこそこ見れる顔だが、そこそこはそこそこだろうが。天使にもなれねぇ愚民が」
「性格はぶん殴りてぇけど、アレの顔がそこそこって、すげぇわ。顔だけはいいのに、顔がけなされちゃあな。まぁ、会長が天使だってのは理解できる範疇だが」
「あんたは黙っとけ」
相変わらず弟君に冷たくされる風紀委員長の兄も俺の味方ではないようだ。生徒会室は俺の敵ばかりである。俺は仕方なく席を立つ。
「あんたはなんかいうことないのか」
先程からアニキ野郎とバカップルのような座り方をしている後輩を見下ろし、俺は首を傾げる。
「天使っていうのはやめろとしか」
そんなことを言っていると、何故か風紀委員長が現れるものだ。
「そうだぞ、会長は魔性の生き物だから、小悪魔というものだ」
「魔性じゃねぇし、小悪魔でもねぇよ……!」
生徒会に厄介なアニキ野郎も押し付けてしまったこともあり、風紀委員長はさらに生徒会室に顔を出すようになっていた。
最近では何故か俺を可愛いといって用事がなくても顔を見せるしあいに来るしでので、恋心が追いつかない、落ち着かない俺としては、たまったものではない。
「てめぇら、俺を無視するんじゃねぇ!」
「なんだ、この会長に憧れてこじらせていっぱいいっぱい君は」
あえて誰も突っ込まなかったことを突っ込んでしまうあたりは、さすが風紀委員長だ。殴りこんできた後輩は、髪色といい格好といい、昔の俺にそっくりだった。風紀副委員長の目にとまるために必死になった俺にだ。
「会長のがセンスいいから、余計にかわいそうなかんじじゃねぇか。ホント、違反であっても毎日楽しみにしてただけに、がっかり感はんぱねぇ」
この通りのはっきりした性格であるため、俺がどれほど挙動不審にならぬように気をつけたところで、人を舞い上がらせ困惑させるのである。毎日楽しみにしていた……そわそわしていたのはこちらのほうだ。
「なん……っ」
「そういってやるな、可愛い後輩だ。俺の真似などしたところで仕方がないと思ったから、ここにきたのだろう。根性があって俺は好きだが」
「お、なん……う……っ、会長さま……ッ」
風紀委員長が言ったとおり、憧れをこじらせていたのかもしれない。俺の言葉に感極まっている後輩をよそ目に、風紀委員長が緩く笑った。
「なんだ、それなら、俺のことも好きになってくれていいんじゃねぇの。こんなに頻繁に会長を愛でにきているのに」
その気がなくてもからかい文句としてその言葉がでる男だから、俺は舞い上がったりはしたくない。それでも、内心はいつも嵐だ。
「馬鹿いうな、嫌いだった覚えもねぇんだぞ? だいたい風紀委員長はめ……会いにきているだけで、根性があるというわけでもねぇだろ」
「根性がねぇと好きになってくれねぇなら、ツライナー片想いだ」
誰にその口を聞いているのだろう。俺こそ片想いをこじらせて何年だという話であるのに、あんまりだ。反論しようとした口が開いたまま閉じられない。
「仕方ねぇか。恋愛しちまったら、会長じゃなくなるんだろ?」
「あ、ああ……」
ようやく出た声は、肯定するだけで他に気の利いた話もできなかった。この際気が利いてなくてもいい。ちょっとだけ、別の会話が出来たら俺には文句がなかった。
しかし、いつでも風紀委員長は俺の上をいく。
「だから、今度、内緒にデートしようなぁ?」
「は?」
それは気の利いた言葉がでない俺も、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「週末、買出し行くから、ヨロシク頼むわ」
「あ、はぁ?」
颯爽と去っていく風紀委員長の背中を見送りながら、俺は自分の置かれた状況をしばらく考える。
それは、俺の理解を超えていた。だから弟君が万歳三唱をしても、兄君が口笛を吹いても、アニキ野郎が神イベントだと騒いでも、まだ後輩が感極まっていても、俺は首を傾げるしかなかったのだ。

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