#191970


三谷は絵を描いていた。
それもそのはず、俺は、第二美術準備室にいる。
第二美術室は美術部が使っている部室のようなもので、それの準備室は美術部員の私物から美術部のもの、学校の備品まで色々なものが置かれてある。
その部屋はところどころに描きかけのキャンバスがおかれており、主に油絵がそこにはあった。
三谷は、今日は薄紫色の絵をかいていた。
朝焼けだろうか、夕暮れだろうか。
陽のない、けれど薄明るい、薄い紫と、光るピンク。
夕暮れか。と判断したときに、三谷が俺に気がついて、イヤホンを耳から外す。
「…なんですか?」
「絵、礼…」
といって、飲み物や菓子がはいった袋を渡す。
三谷は笑って、今ですか。といった。
絵を貰ったのは六月の終わりだった。
「玄関…絵…」
「あ、あれ、みましたか?夏休み、キャンバスなくした罰に描かされたんですよー。あれね、書記様に渡した絵の、続きなんです」
気づいてくれたんなら、俺ってすごいわー。と自画自賛をしながら、三谷は袋の中を覗く。
お、ラッキ。といって菓子を取り出す三谷を見ながら、俺は呟く。
「ここ」
「はい?」
「ここ…また、来たい」
「また来るんですか?」
「来る」
「そうですか。じゃあ、また、これ、買ってきてください」
手に取った菓子を見せながら、三谷はいう。
ああ、安い菓子なのに。
思いつつ、笑って、頷いた。
「書記様って、いいですねーなんか、ゆったりしてるっていうか…のんびりしてるって言われませんか」
「…?」
首を傾げると、三谷がまた、笑った。
「うん、のんびりしてますよ」
藍色の油絵の具のついた筆をおいて、三谷はその辺のイーゼルにおいてあった木炭をとると、俺の腕をとった。
「木、かな」
俺の肘辺りまで伸びた大きいのか小さいのかわからない木炭によって描かれた木は、こすったらすぐになくなってしまうのに、力強い。
「うん、決めた」
なにを決めたのか知らないけれど。
俺はなんだか嬉しそうな三谷に釣られて、また笑った。




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