緑と緑の隙間から差し込む黄色と白と、黒い影。
深い緑から、薄い緑、汚れた緑、明るい緑、もうすでに黄色の種類だろうと思われる緑。
力強くのびた茶色はこげていたり、土の香りがしそうな暗い色や、触ったら手が湿気りそうな色。
色々な木々の影をものともしない、大樹の絵。
それでも、たった一本立っているわけではない、その木。
空や海以外の三谷の絵は、俺の好きな青ではないのに、ずっと眺めていたい絵だった。
タイトルは、ない。
文化祭の美術部の展示。
製作中もずっと見ていたのだけれど、飽きもせず眺める。
「そんなに好きですか?あげましょうか?」
枠はあげられませんけど、布なら、簡単ですよと言った三谷に、俺は頷く。
三谷の青が好きなのだと思っていた。
三谷の作り出す空気が好きなのだと思っていた。
…三谷の、絵が好きなのだと気がついた。
「三谷はすぐあげるとかいうー。書記様も頷いちゃダメですよ!それ、美術展にも出すんですからね!」
三谷は、学園の玄関に飾る絵を描くほど、絵がうまい。
三谷本人は罰としてと言っていたが、それだけではないのは確かだ。
「いやでもねー、美術展には美術展用にかいてるじゃん、あの紫の絵」
「…あのなぁ…」
説教をしている三谷の友人らしい美術部員の話を三谷といっしょになって聞きながら、ごまかすように笑う三谷に首を傾げる。
「大学、美術?」
「んー芸大いくかどうかはなー…つか、もう、おそいっしょ、今からやってたんじゃ」
「遅いかもしれんがやれ!とにかくかけ!」
「えー…」
三谷の友人の話では、三谷は絵をずっと描いているけれど、その絵をどこかに出そうとか、見せようとか、仕事にしようとかそういうものがないらしい。
「大学、行く、絵多くなる」
「……えーと。絵をかく機会?時間?」
三谷が俺の足りない言葉に足してくれた言葉に頷く。
「それは、魅力的だけど、魅力的だねぇ…」
「くっそ…書記様といい、三谷といい…!」
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