#666699


毎日三谷の絵を見る。
部屋に帰ったら見れるし、学園の玄関ホールにも三谷の描いた海があった。
放課後は暇があれば、三谷が絵を描いているのを見に行く。
三谷の描く絵は、どれも好きだ。
クロッキー帳に描かれたモノクロの絵も、展示会用に描かれた絵も、思いつきか暇つぶしで描いてる絵も、どれを見ても好きだと思える。
「そうだ、書記様。俺、芸大受験するから、今度から顧問にスケッチ見てもらうことになったから」
俺はその言葉をきいて、話を促すため頷く。
「画塾通うのも検討したんだけど、そうなると今更転校しなきゃならないから、顧問に頼み込んだ」
学園の近くに絵画のための塾や教室はない。確かに通うとなると違う学校に行かねばならない。
三谷が、顧問に頼んだのはよかったなと思った。
「で、本題。書記様、そんなわけだから、受験終わるまで、マンツーマンなんで、その……」
なんだかいいにくそうな三谷に、俺はもう一度頷いた。
「解った。来ない」
三谷が口をあけたまま、何を言おうか悩んでいる。俺は更に続けた。
「昼休み、駄目?」
三谷が漸く口を閉じて笑った。
「昼休みかぁ。でも、昼、俺、食堂だから」
「一緒」
「一緒には無理じゃないかなぁ。騒ぎになるだろうし」
なんだか寂しい。
三谷の絵が見れなくなるわけではない。
持っているし、玄関ホールには三谷の絵があるのだから、そう、毎日見られる。
それでも、なんだか、寂しい。
「三谷、見れない、残念」
「んー……あ、じゃあ、さ、落書きでよければ、下駄箱、こっそり入れとく」
俺は、三谷の違う絵が毎日見れると、それに頷いた。
「でも、書記様に会えないのは少し、寂しいかも」
「俺も」
三谷に言われて、気がつく。
三谷に会えないのは、確かに寂しい。



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