サクヤ×アキラ




 高校を卒業しても、俺が社会人になっても、サクヤが社会人になっても、いつになってもサクヤは俺に慣れない。
 いつもやることなすこと、緊張のあまり決まらないのだ。
「ええと、その」
 高校の時から、イベントごとには興味が無い。いて欲しいときは呼び出し、したいときはする。もしもそのときに何かイベントごとがあるのならば、それにかこつけて楽しむ。イベントごとなどというものはそれくらいのものだ。
 しかし、サクヤはそういったイベントごとに憧れがあり、毎年毎年、失敗するというのに俺となんとかイベントをこなそうとする。
 いつだったかのクリスマスもそうだった。俺はクリスマスといわず、年末年始が忙しい飲食業で、サクヤの就職した会社は小さい会社で、年々休暇が少なくなっている。クリスマスの前にクリスマスらしいことをしようとしてクリスマスケーキを買い忘れ、焦ってチキンまでだめにした。
 そのときのクリスマスに会う時間が減ったと文句を言うと、次の年、サクヤは残業して残業して、節約に節約を重ね、俺の誕生日だっただろうか。まだ引っ越すには少し足りないんだけどと、弱々しく呟き、握り締めて温かくなったサクヤのそのとき暮らしていた部屋の合鍵をくれた。俺に鍵を渡すと走って逃げていったので、詳細まで覚えている。
 そのあと、俺も協力して引っ越した。
「あの、ええと……」
 もう休みの日でなくても会えるのだが、やはりサクヤはイベントごとに拘っている。
 疲れきって帰ってきた祝日の深夜、クリスマスイブになった今日、何故か着膨れたサクヤが正座をして玄関で待っていた。
 俺は玄関で靴も脱げぬまま、サクヤが何か言うのを待っていたが、いい加減、風呂に入って寝たくなり、舌打ちをする。
「へ、あ、すすす、すみません」
 最初の印象というのはなかなか変わらないものらしい。俺が少し良くない反応をすると、すぐにサクヤは謝る。今度は俺自身に舌打ちをしたくなりながら、俺はもう少し、サクヤを待つことにした。
「その、デートとかしたかったし、あの、この時期忙しいのも知ってるから、なんか、こう、ロマンチックな、あの、用意したかったんだけど、金銭的に難しく……」
「その辺は面倒だ。本題を言え」
「ひゃい!」
 背筋を伸ばして舌まで噛んで返事をされる。
 この調子で、本題がくだらないようなら風呂に入って寝てしまおうと強く思った。
「俺のおくさ……よ、違、けっこ……、え、お、俺のものになってください!」
 もこもことしているアウターのポケットを探り、しばらく服についているポケットというポケットを探り、顔を青くしたサクヤに俺はため息をつく。
「ご、ごめん……」
「ちげぇ、なんとなくお前がくれようとしてるもんは解った」
「はい……」
 格好がつかないと、いつも通り肩を下して項垂れているだろうサクヤを見ることなく、俺はサクヤのうかつさを指摘する。
「たぶん机の上とかに置いたままになってんだろうと思んだけど」
「……ああ!」
 サクヤも思い当たることがあったようだ。顔を上げて、呑気に喜んでいる姿が思い浮かぶ。
「……アキラ、外、寒かった?」
「うるせぇ、熱ぃんだよ、今は」
 不覚にも、少し嬉しかった。