ユキヒト




「クリスマスってさ、どうしてこうも寂しさが押し寄せてくるんだろう……」
 鼻歌でクリスマスソングを奏で、チキンナゲットをつまんでいる兄には申し訳ないが、文句を言わなければならない。
「えー俺が居るでしょ」
「えー兄貴じゃやだ、恋人がいーいー」
「俺は家族がいーいー」
 そんなことを言ったら、じゃあ家族になろうかって籍入れにくるような恋人がいる兄にはわからないだろう。この切なさ、悲しさ、心弱い感じ、きっとわからない。
「だって俺、独り身だよ?」
「俺もたまには独りになりたいなぁ」
「それは贅沢というものではないですかね!」
 俺の反論にも兄は何処吹く風だ。悔しい、非常に悔しいので、俺はさっき兄の恋人に連絡をいれ、クリスマスの説明をしておいた。
 クリスマスとは恋人ときゃっきゃうふふ楽しく過ごすもので、イチャイチャと前日にデートした挙句、夜には子作りに励まねばならない。
 そう、説明しておいた。
 きっともうすぐ、ヒューがインターホンを鳴らして、兄を連れ去ってくれるだろう。
 意趣返しは出来るかもしれないが、大変悲しい結果ではある。
 父母も祖父母もデートするから、お留守番ヨロシクねと泊りがけで何処かに行ってしまった我が家だ。俺一人になってしまう。
 一人になってしまうのなら俺も好きな人を、クリスマスという友人と一緒に楽しむ行事があるとだまして、一緒にいるという手もある。
 そんなことを考えているうちに、インターホンが鳴った。きっとヒューだ。
「はーい」
 兄が何も考えず玄関に向かった。これで兄はいなくなってしまうのだろう。そう思って、ソファーにうつぶせになる。
「ユキ、お客さん」
 兄が戻って来て妙なことを言う。
 そんなバカな、あの猪突猛進というか、まさに爬虫類といわんばかりに執拗に兄とどうにかこうにかことを運ぼうとするヒューがこんな機会を逃すのか!
 驚きのあまり振り返る。
 お客さんはヒューではなかった。
「よう」
 俺の好きな人だった。
「サプラーイズ。お兄ちゃんからのクリスマスプレゼントでーす」
 姿勢を正すので忙しいやら、嬉しいやら、兄に抱きついて喜びたいやらで、混乱している俺の耳にインターホンの重たい音が響く。
 先程と同じ音のはずなのに、何故かその音は重量を感じた。
「兄ちゃん、ごめん」
 腹のあたりにパンチを捻じ込まれたような気分になり、腹をさする。また、兄ちゃんって言ってしまったとそんなことを考えることでしか、この来訪者の重たさは回避できない気がした。
「まて、何をした……?」
 もう一度重たい音が響く。
「ごめん、頑張って」
 兄は程なく、我慢しきれず転移までしてきた爬虫類系の恋人に連れ去られていった。
 あとに残された俺はもう一度ごめんと言って、好きな人とのクリスマスを楽しむことにしたのだ。
「うん、兄貴もきっと楽しいクリスマス!」
「いや、すげぇ抵抗してただろ……」