後輩とセキヤ




「先輩、クリスマスですよ!」
「ここにクリスマスって関係ないだろ……」
 もう結構夢が覚めないままだから、クリスマスという行事がこの世界に無いことは知っている。
 わざわざ城から抜け出して、嬉しそうに俺に話しかける後輩に俺は首を捻った。
「だいたい、今日が十二月でしかも二十五日ってわからないだろ」
「いえ、俺の持ってた日付入りの日記帳を毎日つけてたんで、間違いないです」
 マメだなぁ……と思いながら、俺はセッカをなでる。相変わらずの柔らかさに心癒されるようだ。
 昨夜も変態が襲ってきて大変だったから、本当に心癒された。クイナが守ってくれているので、俺の童貞も処女もまだ無事だ。童貞はできたら好きな子にあげたいものである。
「なんで、その、これ、プレゼントです」
 そう言ってくれたのはストラップのようなものだ。剣や鞘につけるタイプのアクセサリーで、天然石やガラスで作られた飾りだった。
「俺、プレゼント用意してないんだけど……」
「いいんです、先輩にあげたかったんですから、クリスマスは大義名分で」
「や、悪いだろ」
 プレゼントは素直に受け取り、俺は身の回りに何か無いかと探り始める。
 しばらくして、ここにきてから別のものを入れるようになった小銭入れの存在を思い出した。俺はその小銭入れをポケットから取り出すと、小銭入れを開いて見せる。
「……欲しいのある?」
「……先輩、これどうしたんですか?」
 小銭入れの中には小ぶりな宝石が入っていた。
「リオラ先輩の蛇にこういうの集めるのが好きな蛇がいて、たまに小さかったからやるよといわんばかりに置いていくんだ」
「先輩、あの変態だけじゃなく蛇にまで……」
「ちがうちがう。その蛇俺のこと弟分だと思ってて、世話が焼けるってくれてるだけだから」
 後輩の言いたいことはよくわかる。しかし、リオラ先輩の蛇の場合、求愛するときは集めた中でもでかくて一番綺麗な宝石を捧げることを知っていた。リオラ先輩が毎回捧げられているからだ。
 俺にくれているのは、お前は俺が面倒見てやらないと駄目だからな。これでまぁ、なんとかご機嫌でもとれよと渡してくれているだけである。
 その蛇は小さいし、俺の兄貴分気取りでかわいいので、リオラ先輩の蛇だが仲良くしていた。
「まだ好きな子いないし、ご機嫌とるっていうか、感謝の気持ちくらいのものだけど。何個か持っていっていいから」
 俺はそんなわけで、先輩方やレントの家族にも宝石を配っている。
「それなら、この薄青いのと薄紫ので」
 二粒つまんで持っていった後輩に、俺は少し微妙な顔をした。
「なんで濃い色のは残すんだ」
「え、だって、濃い色は、こっちじゃプロポーズに使うでしょ?」
 どおりで、蛇がリオラ先輩に血のような赤い宝石しか渡さないはずである。リオラ先輩はその血のような赤が良く似合っているので、似あうものしか渡さないのかと思っていた。
「だから、ちがうんだぞ、お前が情けないからだ。みたいな感じだったのか……」
「先輩、俺ちょっと、そのおしゃべりそうな蛇に会ってみたいんですけど」
 実際はしゃべらない蛇なので、ボディーランゲージが激しいのだけである。そのお陰もあって、俺はその蛇にびびることはない。
「綺麗な蛇だぞ。鱗が宝石みたいで」
 よく嫉妬したキルロイネに食われかけているが、本当に良く動く綺麗な蛇だ。
「まぁ、とにかく。ありがとう。大事にする」
「いいえ、俺も大事にしますね」
 こっそりと見ていたらしい変態が拗ねて大変だったのは、また後の話である。