ハツカ×久住




 予定はいつも通りだ。
 ハツカの家に行って、泊まって、朝飯を食う。
 色気づいてサラダにパプリカが入っていたことと、星型のポテトが目玉焼きに添えられたこと以外は至って普通の朝食だった。理由は聞かない。そういう気分の時もあるだろう。
 昼飯を食っているとき珍しくハツカが夜は早めに家に来てくれというから、早めにハツカの家に帰った。
 そこでようやく、ハツカもクリスマスに浮かれるんだなと知る。
「メリークリスマス」
 百円均一で買ったんだろうクラッカーが糸だけ抜けて、うまく鳴らせず、ハツカは頬を掻いて恥かしそうに言った。
「メリークリスマス」
 俺はハツカの真似をするように同じ言葉を繰り返す。
「クリスマス、恋人と一緒に過ごしたいのは、久住的にはなし?」
 今まで恋人という名称をつけた女は、皆、クリスマスまで続いたことがなかった。
 クリスマスまで続いたのはハツカが初めてだ。
 しかし、何かしたかったわけでもない。
 クリスマスの予定はいつも通りで、晩飯にチキンでも食えばいいかと、流されるように思っていただけだ。
「別に」
 俺の短い答えに、クラッカーを靴箱の上に置き、ハツカは俺の手を取る。
「興味がなかったのか、そっか」
 そのまま俺を引っ張り、小さなツリーが飾られたリビングを無視し、二階へとあがった。
 季節感がある一瀬家ではリビングには年中何かしら飾られている。クリスマスツリーもその一つであって、まさか、クリスマスをハツカが楽しみにしているとは思わなかった。
「なら、俺に付き合ってくれる?」
 ハツカの部屋に入るとすぐに、甘えるように抱きついてくる。
「それなりに」
「それなりかぁ」
 勉強机の上に置かれた透明な箱に入ったスノードームをハツカがわざわざ振り返り指差した。ドーム内にはクリスマスらしい雪だるまとサンタとモミの木と家がある。
「それ、クリスマスプレゼント」
 クリスマスにしか活躍しそうにないスノードームは、俺のものになってしまうとクリスマスすら活躍しないで埃を被ることもなく何処かにしまいこまれてしまうだろう。
「俺には似あわねぇだろコレ」
「似合わないし、きっとどうしていいかも解らないのに貰ってくれるし、大事にしてくれるんだろうなぁと思って」
 自惚れるなと殴ってもいいくらいだったが、何故か俺にはハツカが殴れなかった。
 その通りだからだ。
「……貰っておくが、お前がもっとけ」
「それ、貰ってないよね?」
「…………お前が持ってたら、毎年、見に来れるだろうが」
 俺を抱きしめる腕の力が強くなった。
「来年も来てくれるんだ?」
「毎年つってるだろ」
 来年だけで済ませるつもりはない。たとえハツカが引っ越しても、俺はハツカに会いに行く。
「そんなになる頃は、俺、久住のこと離さないよ? 家なんかに帰してあげない」
それはつまり、どういうことだと考えていると、ハツカにキスをされる。
 いつになく長いキスに思考を奪われ、俺は答えにたどり着かなかった。