遠田×大谷




「俺は幻覚を見ているんだろうか」
 目の前の幻覚は答えた。
「お前の目に見えているものが真実だ」
 俺は携帯で日付を確認して思う。
 嗚呼、クリスマスとはトラウマを作るための行事であったのか。
 目の前にいる幻覚の名前は大谷陽介。金持ちの子息と才能ある子供が集う男子校の、金もあれば勉強も出来、才能もあるし、姿形もすばらしい生徒会長様だった。
 その生徒会長様自体は、幻と思うほどの神々しさを俺は感じない。
 しかし、その生徒会長様の本日の姿は、幻と思いたいほどの酷い有様だった。
 クリスマスといえばサンタにケーキにチキンだといわんばかりに、チキンのパーティーセットを片腕に抱え、シャンメリーのギラギラとした包装紙を持ち、結構大きなケーキの箱まで持っている。
 クリスマスを思う存分楽しむつもりだとわかるセットで、それだけなら、そうか、クリスマスだなと納得するだけだっただろう。
 だが、どうしても、どうしても目を背けたい現実が俺の目の前にあった。
 赤い服に白いフェイクファー、帽子も同じ配色だ。サンタだと誰もが思うだろうそれは、女が着ていればよかったと俺に思わせる。
 パフスリーブなどなかったのだと思わせる袖、胸の谷間を見せびらかすためにあいた襟から見えるのはある意味山あり谷ありの絶壁だ。切ない思いで視線を下げれば、膝上、いや、パンツから何センチと離れていなさそうな白いファーの終わりが見える。
 肌色が随分多い布だ。気のせいか、足の辺りにリボンのついたガーターソックスまで見えるようだ。
 その肌色の布は罪作りなことに、足をたくましく見せる効果があるらしい。いや、もう認めよう。足だ。輪になった布の中から足が二本生えている。
「神さまっていないんだな……」
「何言ってんだ。プレゼントやるから手ぇだしてくれ」
「一応聞くが、プレゼントってのはなんだ?」
「俺と一緒に行く、ドイツ冬の旅招待状」
 夏の悪夢再びだ。俺は眉間に精一杯皺を寄せ、首を緩く横に振った。
「ご遠慮していいか」
「駄目だ」
 嗚呼、やはりクリスマスとはトラウマを植えつけるための行事なのだ。
 思わずにいられない俺を、誰が責められようか。いいや、誰にも責めさせない。