寒空の下、薄着のままで居たら当然のように風邪をひく。
「ばっかじゃないの、篠原」
翌日、寒気と頭痛に襲われても、イツミくんが来るかも知れないという理由で、休まず出勤したコンビニで、今日の相方である友人に呆れられる。
風邪だと言って大学には行かなかったぐらいであるのだから、当然の反応だった。
「お前、治ったとか思えないくらい見た目でアウトじゃん。帰れよ」
見た目がまずいように言われてしまったが、その通りかもしれない。鏡を見て一応、寝癖くらいは直してきたが、顔色があからさまによくなかった。
昨日、俺が帰る頃には既に、体調が悪そうだったこともあり、今日は休みであるはずの店長が店の奥から出てきて、俺におざなりに手を振る。
「帰れ帰れ。俺が代わっとくから、帰れ。それで、恋人に優しくしてもらえ」
店長は、昨日のこともあり、少し責任を感じているらしかった。俺に面倒そうな態度はとるものの、言葉からそれが伺われる。
「篠原、恋人とかいたのか!」
友人の山井は、イツミくんが俺の恋人であることを知らない。
恋人ができたと言おうと思わなかった。俺が恋人を作ると、山井がやたらと羨ましがってくるからだ。
「クソ……ッ、また、美人のおっぱいおっきいおねぇちゃんなんだろ!」
「いや、俺が知る限りでは、おっぱいは控えめでスレンダーでかっこいい感じだし、たぶん、年下だぞ……でも、顔は確かに整っているほうだな」
「篠原って、面食いなんスよ。しかも、ちゃんと美人を捕まえてくるんスよ。羨ましい!」
熱も出てきたのか、ぼんやりする頭で思い返しても、そう思えば美人だった。顔で選んだ覚えもなかったが、可愛い人たちだったし、現在の恋人であるイツミくんは可愛い。
「でも、今回はもう駄目かも」
「なんでよ」
「昨日、誤解されたままで……」
店長が頭を抱えた。その傍で、山井が鼻から抜けるような息を出して笑った。
「ざまぁ。毎回美人さんを恋人にするからそうなるんですぅ。しかも、愛され美人さんとか羨ましすぎるんですぅ」
「さっきまで俺の心配をしてくれた山井は何処へ」
「最初からいませんでしたぁ」
嫌な野郎だ。俺が山井の頬を引っ張ってやると、山井は頬を引っ張られたまま、驚いた顔をした。
「……マジ、帰ったほうがよくね? 手、熱いんだけど」
「ほら、さすがに恋人も、ほら、熱出して風邪引いてる恋人が寝込んでるってなったら来てくれるって、好きなら」
「そうそう。電話とかメールとかすればいいじゃん」
実はメールも電話もしてみたが、メールに返事はなく、電話も出てくれない。
やはり駄目なのかもしれないと暗くなってしまうのは、体調だけのせいではないだろう。
「それ、反応ない」
店長までも暗くなってしまったのが、その場の雰囲気で解った。
店長と山井のため息が聞こえたからだ。
「ちょっとくらいで何言っちゃってんの。いつもなら、わりとなるようになるって感じじゃん。今回に限ってなんでそんな重たいの? もしかして、ベタ惚れなの?」
店長とは違い、俺の様子に呆れてため息をついたらしい山井は、今までの俺を振り返って軽く言ってくれた。
暗い考えばかりが浮かんでは消える頭の中に、昔のことも浮かんでは消え始める。俺は山井の言うとおり、今までの恋愛の中でこれといって特に危機に瀕した覚えがなかった。