初デートをして、二人は気持ちを確かめ合い、人も羨むカップルにならなかった。
そもそも気持ちの確認らしい確認もしていない。
俺が解った事は、怖い、またはかっこいいといわれるだろうイツミくんが、デート後も可愛く見えるということだけだ。
それもあり、イツミくんがコンビニにくると余分にかまってしまうし、いつも一緒に深夜番をやっている相方には最近楽しそうだとからかわれている。
確かにデートに行く前よりイツミくんとコンビニで会うことが楽しくなった。
イツミくんも相変わらず怖い顔をしてレジまで来るが、寝る前は挨拶のメールをくれたりする。
朝方に帰宅する俺を待っていたりはしないし、寝る時間もまちまちのようだが、それでも、おやすみとお疲れを一緒にしたメールを休憩時間に見つけるたびに、俺は嬉しくなってしまうのだ。
こうして、二人は少しずつ距離を縮めている。そう感じるものの、俺は、少し足を踏み出せないでいた。
「え、キスの一つもしてないのか?」
コンビニのカウンター越し、無人であるのをいいことに、今日の深夜番の相方である店長が俺を冷やかす。俺は暇さのあまり、乱れてもいない商品を整理しながら、店長に答えた。
「してないですよ。人それぞれでしょ、そこは」
「いや、そうだが。あんなにわかりやすく嫉妬されて、あんなにわかりやすく好き好きしてたら、男なら手を出すだろ」
「あっちも男だから、慎重になる部分とかもあると思いますけど」
ファッション雑誌の棚をきれいにして、ちょうど一八歳未満お断りの棚を整理していた時に、店長がそんなことを言った。店長の言ったことが気になってか、雑誌の表紙を飾る女の子が俺に話しかけているように感じる。男の子でしょう、やっちゃいなよ。そう言っているように見えた。
「それはあるだろうけど。俺もあったし」
「店長がオーナーと、あれだけオープンだから、俺も、男って結構普通と思ってるとこがありまして、普通に告白は受けちゃったんですよね。でも、仲良くなればなるほど、ちょっと待ってって、思うこともあって」
「俺にとっちゃ結構普通だけどね。性別が一緒ってだけ。少数派ってだけ。でも、そうだなぁ……いいのかなって思うことあるよなぁ」
店長の言ってることはもっともだ。確かに、男とつき合うということは少数派というだけで、何か悪いことをしているわけではない。それでも周囲の目は気になるし、男女の恋愛が当たり前だと思ってきたのなら、悩んでしまうのも仕方がないことなのだ。
「ですよね……俺、思うんです。このままでいいのかなって」
イツミくんと付き合い、舞い上がっていても、俺は細かなところで男なのにと思ってしまう。
初デートの時もそうだ。
俺は前日に、とても悩んだ。デートについて悩んでもいたし、男同士でデートをするのにという気持ちでも悩んでいた。この辺りでは中心地に行かなければ何もないくらいだが、それでももっと、密やかにデートをすべきではないかとも思った。
「でも、会ったり、連絡とったりしちゃったら、楽しいことが先に来ちゃって」
「わかるわかる。先延ばしにしてるだけなんだがな」
俺も将来を考えなければならない年齢である。勉強したいから院生になったわけではなく、答えを先延ばしにした結果が今の俺だ。だからこそ、俺は余計に考えなければならないはずである。
「でも、まぁ……意外と、ここまで来ても、先とか見えないもんだぞ。どうありたいか、どうなりたいが薄ぼんやりあるくらいだな」
今まで男と何かしらの経験があったわけでもない。目前に見えるもの、周囲の反応、それらが不意に顔を表し不安にもなる。イツミくんさえいれば、それでいいと言えるほど俺はまだ達観してなければ、イツミくんに盲目的でもない。その上、卒業していった友人たちと立ち位置も違う。