でも、好きじゃなきゃいわねーよ

学園の裏庭には、不良よりも小さな、可愛らしげな生徒がよく見られる。
今日も今日とて、風紀委員の目をかいくぐり彼らは制裁という名のリンチを行う。
「おー…」
可愛らしげな生徒は親衛隊という肩書きを持っている人間で、リンチの前は呼び出しを行い注意という名の脅しをする。
必ずと言っていいほど決まった場所で行われる。
もはや儀式だ。
そんな場所を、風紀を取り締まる人間が見張っていないわけがないのだが、風紀とて生徒だし、人間だ。
人を取り締まる立場にあるのだから、遅刻などもってのほかだし、授業をサボるなら風紀やめろである。
そんなわけだから、半ば無理矢理、公休をいただいて風紀の見回りをしたりするので、人数が確保できない。たまに袖の下を貰って黙っている人間もいるので、いつまでたっても同じことを繰り返す。
もちろん、マークされてしまったら、場所を変えるというのが学習能力のある人間というものだ。 学習能力があるのならやめてもらいたいものなのだが、やめないのはもはや伝統だからなのかもしれない。
誰にも言ったことはないが、ちょっとそうなのかもって思ってる。
そんなわけであるから、不良すらも制裁現場になる人気のない場所は避ける傾向にある。
だからこそ、そこにぼんやりとした様子でやってきた不良が、制裁現場に鉢合わせることは大変珍しいことだった。
俺は小さく声を上げたあと、裏庭がよく見える特別教室の窓からその様子をチラチラ伺いつつ、手を上げる。
「先生」
「なんだ、四方田(よもだ)」
「堂々とサボってる人見つけたんで、風紀連絡していいっすか」
「……いいんだが、四方田。お前も堂々と外眺めてたってことだよな?」
俺はチラチラと見ていた窓の外を、堂々と見つめたあと、教師に振り返る。
「今日はいい天気だなぁと思いまして」
「お前、バケツ持たせて立たせるぞ」
制裁現場は、一人の不良によって鎮圧されつつあったが、このままでは被害者が二重に被害を負いそうである。
これは、連絡などとっている場合ではないなと思い、俺は窓を開け、口を開く。
「笹塚(ささつか)ぁー、愛してるー!」
いささか言うことを間違った気がするが、不良が止まったのでいいとしよう。
「……お前、廊下立て。とりあえず、バケツに水入れて、それ持って、たっとけ」
そんな経験をすることも、そうないだろうなと思ったので、素直に特別教室の備品にいそいそと水をいれ、廊下に立った。保護者に怒られるとかでしてはいけないらしいが、俺はちょっとおいしいような気もしてきている。
「もうちょっとしたら、ちゃんと入ってこいよ。つうか、その前に連絡しとけよ」
そう思えば、風紀に連絡しなければならないんだっけ。
そんなことを思いながら、俺は、一度、バケツを廊下に置いて風紀委員長に電話をした。