「よぉ」
「……ばん」
四度だ。
確実に四度、俺は会長に良く似た男、クオに会っている。
そして、猛烈な勢いで口説かれていた。
「今日も、男前だな。付き合ってくれ」
この前置きが少ない口説き文句は、二度目から言われ続けている。
「断る」
「そのクールさも買う。だから付き合ってくれ」
「断る」
何かといっては付き合ってくれというので、付き合ってくれという言葉は四度どころではなく数え切れないほど言われていた。それに伴い、断るという言葉も何度となく返している。
肝心な付き合って欲しい理由についても二度目に吐露されており、あとは口説き落とすだけだとクオは馬鹿を言っていた。
「結婚をしろといっているわけじゃねぇんだから、ここは軽く、うんと言ってみるのも手だ」
なんの手段か問うのは、三度目にやった。俺に不都合な手段が増えるだけで、益がないので二度と問わないと誓ったばかりだ。
「うんと言ったらどうなる」
「二度と離さない」
「お先まっくらじゃねぇか」
クオは、俺の疲れた一言に大きく首を振った。
「何言ってんだ、幸先いいくらいだろ」
「だが、ご遠慮する」
可愛くない顔で唇を突き出して不満そうにするのでその口を親指と人差し指でつまんで引っ張る。痛かったのか、クオは俺の指からすぐに唇を離した。
「あざといぶりっ子をして似あう容姿だと思うな」
「思ってねぇけど、そこはおまけくらいで、哀れんで付き合ってくれてもいいだろが!」
解りきったことで変な駄々をこねるクオは、やはりどう見ても生徒会長には見えない。
何処を見ても偽者だ。偉そうだが、学園生徒の頂点に立つにふさわしい品格がある生徒会長とは似ても似つかない。だいたい、会長に比べて影がうすいのだ。クオにはじめて会った時は、本物の生徒会長に悪いことをしてしまった。
「で、外に出るんだろう」
「無視か。本当に冷たいな」
流していると延々と口説いてくる。それは二度目に会った時に知った。
「払うもん払って、さっさと行け」
こうやってあしらうと、クオは声を出し、腹を抱えて笑う。
クオが笑っている姿は会うたびに見ているが、生徒会長と姿形が似ているだけあって、珍しいものを見た気になる。
気を取り直し、俺はクオの手を断りもなくとると、軽く握った。
「外、出るんだろ」
「そうだな。代金はいつも通り、口座にいれておく」
俺に手をとられると、クオは空いているほうの手で目尻を軽く拭う。
「現金持って来いと何度言えばわかるんだ」
「何度も言わせてぇから、持ってこねぇよ」
「次からはいわねぇよ」
生徒会には使われているが、生徒会の依頼以外は商売だ。五度目があるかもしれないし、ないかもしれない。現金は用意しないが、クオは口座にこちらを喜ばせるような額をいれてくれる。こちらが提示した額に少し上乗せしているのは、チップのつもりなのだろう。出来れば、五度目があってほしい。
俺は口座に振り込まれるであろう金額を予想しながら、転移魔法を使う。
クオは俺に軽く手を振って、俺の前から消えた。
「そう思えば、生徒会の連中、最近こねぇな」
生徒会の依頼は半年前から受けているが、頻繁にあるわけではない。ひと月依頼がなかったこともある。
普通のことだ。しかし、生徒会長に似ているクオが短期間に四回も来たため、『来ていない』という気になったのである。
このまま、何事もなかったかのように依頼が来ないのは構わない。留年の危機は去り、一応反省した俺は、テストだけはギリギリでも合格点をたたき出すことにしていた。
もう来なければ、ただ働きしなくてもいいので嬉しい限りだ。