金のエンジェル2



「お、おまえなんて、好きじゃ、ないから…!」
素直になれない。というには素直すぎる。
そういうところが、好きだった。
簡単に言えば、そうなる。
「お、俺だって、好きじゃねーよ!」
非常に素直すぎるくらい素直な言葉に、さらに素直な言葉が返される。
この状態で、二人して自己嫌悪。そして、二人してショックを受ける。いい加減に、なんとかならないと、心がもたない。
見せ付けられているようであるし、チャンスであるような気もするのだから、始末におえないのだ。
「俺はおまえのこと好きだけど、なぁ?」
などといえば、二人してうろたえた。
片方は、俺に勝ち目はない。と項垂れた。
片方は、ごめんなさいと項垂れる。
解りきっている。解りきっているから、なんとかなって欲しいと思うのだ。
「嘉原は?」
「あ、お、俺…は…俺、は!」
このあとは、簡単だ。
本気で、ストレートに好きだといった。
もちろん、俺に、ではない。
二人は両想いなのだから。
…はぁ…。




銀のエンジェル2



二時間目になると誰も来ない屋上。
その屋上のフェンスにもたれかかり、俺は溜息をつく。
「で、書類か?呼び出しか?」
「書類、できてる分は昨日投函してくださったんで。そうですね、お届け物です」
「へぇ?」
「『風紀委員長ありがとうございます!貴方のおかげで好きな人と両想いになれました…!』」
「ああ、ひーくんと畑山くんか」
「という手紙と共に、クッションが届いたので…」
「ああ、浮かれ気分でピンクと赤のハート型か…裏表にイエス、ノーはないか?」
「ありますね」
「そうか」
イエスノーまくらならぬ、イエスノークッションか。いつ使うんだ、俺に渡して。
「まぁ、くれるならありがたく使おう」
「そうですか。貴方の基地も益々充足しますね」
「おーソファベッドきたときは、やったな。と思ったが」
貯水タンクの裏には、部屋のようなものがある。
それはかつて、とあるクラブが使用していた部室であったが、とある事件から不良に横取りされ、最終的に俺に没収された。
とあるクラブは天文地学部といい、この部室を星見会という年に数回行う星座観測につかっていた。その名残で、望遠鏡と自作ミニプラネタリウムがあったりする。
とある事件とはその星見会中、うっかり盛り上がってしまった生徒達がうっかり不純同性行為をはたらき、星見会がなくなってしまった事件で、それ以来使わなくなった部室は不良の溜まり場となった。
が、俺が鬱陶しかったので、そいつらを締め出して自分のものにしてしまった。
と、それだけの話。
今、その部室は、風紀委員長ありがとう!と感謝されるたび、金持ちのぼんぼん達によって設備が整えられている。
つまりところ、俺がここを拠点としていることはよく知られた事実だ。
しかし、それは、二時間目だけしか訪問していないと思われている。
何故なら、俺が神出鬼没であるためだ。
「ここの貯水タンク、とっくに貯水してないなんて知ったら、皆びっくりするでしょうね」
「まったくだ。まさか機器類おいてるとは思うまい」
実は貯水タンクは、他の場所にうつされ、開いたこの場所に部室よりも頑強で機器類を置くのに最適な場所がこっそりつくられ、かつ、貯水タンクに似せられているとは誰が思おうか。
おかげで、何処で事件がおこっていても、俺にはわかる。
…映像でキャッチだ。
そして、サボっているにもかかわらず、事件がおきるたび何かとやらされる。
「まさか貴方が、掃除用のリフトに乗り降りして移動してる…だなんて、誰も思ってないでしょうし」
恐ろしいことに、窓や壁用の掃除リフトに、フェンスがない場所から乗り降りするため、掃除をしてくれているおっさんたちに大変気に入られている。怒られるので、もちろん命綱はつけてあるが。
ちなみに、フェンスがない部分は、完全に生徒立ち入り禁止区域であり、誰も近寄らないように工夫がなされている。
その工夫を無為にしているのが俺であるのはいうまでもない。




金のエンジェル
あいかわらず振られんぼ。
だいたい止めは自分で刺す。


銀のエンジェル
五回に一回でようやく動く。
だいたいさぼったりおしごとしたり。
授業すら監視カメラから受けている。
たまに録画。


宅配の人
副委員長。
嫌な仕事から、イエスノークッションまで。
とりあえず、委員長に届けるのが仕事の一つ。




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