金のエンジェル3



好きです付き合ってくださいの短い言葉が、いつだってすぐにはでない。
結果的に、いつも告白することになるのだが、いつも振られてしまう。
付き合ってください、まで言えた覚えはないが。
それでも人を好きになるのは、惚れっぽいからなのだろうか、それとも、恋愛体質なのだろうか。
次へから次へと移り変わる好きは、軽いようにしかおもえず、口先であるように思える。
だから、なくことなんて、ないだろうと思った。
泣いた。
俺ではない。
俺の目の前の人間が、告白された人間が、泣いた。
「ごめ…なさ…ぼく、は…」
人よりも、人の感情に、その場の空気に、敏感だ。
いいなと思って見詰めた瞬間から、その人を追いかける。
すぐに気づくのはその人の好きな人。
その人が好きになっていく人。
もたもたしているから悪いともいえるし、もたもたしなかった結果がその感情の芽生えを助けることもあって。
どうすれば一番いいかだなんて、好きだという想いに侵されると空気を読んでも感情を読んでも失敗しかしない。
ただ、一つ言えるのは、俺の告白は、いつも、諦めから始まる。
「ん。牧が、好きなんだろ…?」
慰めるのに頭を撫でるのは、まぁ、抱き締めると誤解されてもあれだと思うから。
「しってるんで、すか?」
「まぁ、俺だしな」
偉そうにいったところで格好がつかない。
所詮、振られているのだから。
そしてその現場を見られてやきもちをやいた牧が、その告白した人間とマンガのような展開でくっついたときいたのは、数時間後。
ああ、虚しい。




銀のエンジェル3



「…おいおい、会長様よぉー通算何回目の失恋だよ…!」
画面に向かって思わず、笑いだす。
人の恋路を眺めるつもりはないのだが、告白現場というのは人目につかないもので、そういう場所に限ってよからぬことは起こる。
つまり、監視カメラもそこに仕掛けられる。
だが、会長様は場所を選ばない。
生徒会室であったり、教室であったりと様々なところで告白、失恋する。
生徒会長様の奇跡的なところはそこではない。
必ず自身に恋情が向かない相手を好きになること、そして、ふられている現場を見られることがないこと、さらにいうと、振ったその生徒が必ず他の誰かと両想いになること。
「すっばらしいエンジェルちゃんじゃねぇか、生徒会長」
ゲタゲタとイエスノークッションを叩きながら笑う。
無駄に防音設備まであるその場所で、俺はさらに笑う。
「今回も大失敗だわ、会長様」
それでも俺は知っている。
毎回毎回。
飽きることなく人を好きになる会長は、毎回毎回、それはもう、傷つくのだ。
ちゃんと、そう、ちゃんと、好きなのだ。
惚れっぽいとも思える会長の劇的な心情の変化もさることながら、一度一度にかける激情は、おそらく本人が自覚せぬほど。
大切で、大切で、大切にしすぎて、諦める。
馬鹿でお人よしなんじゃねぇかと思えるその行動は、おそらく人を惹きつけるに足るのだろう。
知らず知らずと人は彼に恋をする。
この屋上にも切羽詰って、おまじないにくる人間もいるのだ。
それこそ、会長の名前を叫びながら、呪いをする人間も。
しかし、その人間全て、会長の恋情に触れはしない。
それは、残酷な奇跡だ。
俺は、両想いだと確信した人間に少しのきっかけをあたえることはあっても、面倒はみない。特に片想いの人間の面倒は、それこそ面倒くさいだけだ。
しかし、だ。
会長は本当に不憫だ。
もし、会長が、そう、この屋上に来るようなことがあれば、ちょっとばかり手を差し出しても罰はあたらないだろうとおもう。
まぁ、ねぇだろうなぁ。
会長、まじないとかやんねぇし、だいたい、自分のことは自分でしたい人だ。
そして、振られん坊にもかかわらず俺様故に、そういうことに頼るのはプライドが許さない。
つまり、ここには、こない。
「奇跡はある意味、起こらない…と」
ふふんと鼻で笑い、俺は動く。
なんせ、牧くんがここで、叫んでたんでね。




金のエンジェル
やっぱり振られん坊。
でも一生懸命。
でも俺様。…のはず。


銀のエンジェル
人の恋路に突っ込むと、馬に蹴られますよ。

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