その距離、四メートル半。
複数の机と複数の椅子、ソファのバリケード越し、少し寂しげな生徒会長。
顔を真っ赤にしてバリケードに隠れる風紀委員長。
「新歓の書類、持ってきた」
「お、おう…、机に置いといてくれ…ッ」
そういってプルプルと震える指でさされたつくえは風紀委員長席。
ああ、風紀委員長、またか。
俺は来客用のソファに座って二人を観察する。
風紀委員室には座る用のソファと、風紀委員長が隠れるためのソファ。その二つがある。
今回は何をしたかは知らないのだが、そのソファがバリケードの一部となっている。
完璧なる拒否だと思う。
そこへ、書類を机に置いたあと、会長はバリケードを登って風紀委員長を見下ろす。
風紀委員たちは落ちはしないだろうか、椅子の山が崩れはしないだろうかとハラハラハラハラしながら、いつ、崩れてもいいように、いつ落ちてきてもいいようにと周りをウロウロする。正直、お前らの方が危ない。
「堅也(けんや)」
見下ろす会長が風紀委員長の名前を呼んだとき、案の定、椅子と机が崩れた。
「散れ!」
誰よりもはやく動いたのは、会長を見ることもできず顔をそらして真っ赤になっていた風紀委員長だ。
いつものこととはいえ、どうしていつもそういう風に行動ができねぇんだろなぁ。俺は麦茶をすする。よく冷えている。
「なんで、あんな…!危ないところに…!」
と風紀委員長は怒る。
周りをウロウロしていた風紀委員たちをも見事に一言で守りきった風紀委員長に、会長も怒鳴る。
「てめぇがあんな危ない壁作るからだろうが!」
「登らなけりゃ崩れなかっただろうが!」
「つうか、バリケードとか作ってんな!俺にどれだけ切ない想いさせてぇんだよお前はバカか!」
会長の言葉に、風紀委員長はハッとする。
「…バリケードは、やめる」
「ん、そうしてくれ」
そのあと更にハッとして、会長からささっと離れ、俺の居るソファの後ろに隠れる風紀委員長。
今更、生徒会長を抱きしめていたことに気がついたらしい。
顔が真っ赤だ。
やれやれ、おあついな面倒くさいなと俺は茶をすする。
湯呑のそこがみえてきた。誰かおかわりをくれないだろうか。
「甲江(きのえ)、今日も来てたのか?」
「ああ、あんたが突然訪ねてくるまではそこで、没収されたバイクのキー返してもらってた」
「それはすまないことをした」
「いや、あんたは悪くねぇよ。悪いのは、そこの過激な照れ屋だ」
「うっせ」
俺にはちゃんと反論もできるし、悪態も付けるのにな。
会長に対しては普段、いつもこうだ。
なんでも一目惚れ、だったらしい。
「ああ、じゃあ、俺の責任だ。照れさせてるのは俺だからな」
このバカップルが。
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