ハートのエースが出てこない!


賭け事が好きだ。
モノがかかってるとなお良い。
「お前が負けたら、俺と付き合え」
モノがかかっているとあまり負けない俺は、いいよと頷いた。
その日やっていたのは、賭けポーカーだ。
俺が勝ったらどうしようか……と考えながら、俺は手札を眺め聞いた。
「俺が勝ったら、どうする?」
カードをすべてその場に伏せて、思い切り良くフルチェンジを命じた会長は、手札を見る前に答えてくれた。
「お前の好きなようにすればいい」
時は放課後。
場所は学生寮のロビー。
通りがかって俺たちを見て、立ち止まった生徒たちに囲まれる中、俺は笑った。
「そ?じゃ、勝負していい?」
会長は自らの手札をみて一つも眉を動かさない。
「ああ」
「……やっぱり、待ってくれるか?変える」
俺は悩んで、一枚だけカードをその場に伏せた。
一枚をディーラー代わりの友人が配ってくれる。
「じゃあ、勝負といこうか」
その一枚をみて、ニヤリと笑う。
会長は少し不安そうな顔をした。俺の自信がある様子に、手札を見せるかどうか迷ったのだ。
この賭けは、会長にとって負けられない賭けだったに違いない。
その分だけ、会長は悩んだ。
しかし、会長は不安を払拭するように、首を横に振った。
「勝負だ」
俺と会長は同時に、手札を見せる。
「エースのフォーカードだ」
一枚、ジョーカーの混じったフォーカードに周りがざわめく。
俺のカードは、役なし。
ポーカーは駆け引きだ。
役が悪くとも、相手を騙すことが出来れば勝てることもある。
「俺の負けだ。じゃあ、付き合おうか」
少し泣きそうな顔をした会長を、煩い連中から引き離すように腕を握って俺の部屋に連れて行く。
後ろから、『ロイヤルストレートフラッシュじゃん!』『えー!なんでかえたの!?』なんていう野暮な声が聞こえたが会長には届いていないようだった。
……ポーカーは駆け引きだ。
最初に賭けを持ち込まれた時に、負けていることだってあるのだ。



next/ iroiro-top