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少しの違いが耳につく。
たとえば、休みの前には呼ばれることの無かった名前。
たとえば、響きであるとか雰囲気であるとか、言葉を、声を伝う何か。
少しの違いが目に付く。
普段と変わらない態度。
普段と変わらない視線。
普段と変わらない仕草。
少しの違いが、すべてを変えてしまったように見える。
それは一人に対して、一人が行なったことなのに、まるで違う二人があるように思える。
それが寂しかったのか、嫌だったのか。
俺は手を出す口を出す。
いつまでも一緒というわけではないし、いつも一緒だったわけではない。
離れた間に変わってしまって、知らない部分も増えたのに、相変わらず、兄貴は兄貴であったから、俺は知らないでいられた。
数ヶ月もなかったではないか。
たったの十数日。
顔を見なかっただけで変わる。かわる。
同じ空気を吸っている気にもなれない。
兄貴は変わらない。何も変わらない。けれど、兄貴がそんなに親しくしていたわけではない人間の名前を親しげに呼ぶ。
兄貴が何も作らないで話す人間がひとり、ふたりと増える。
兄貴が多くの時間を誰かと過ごす。
そのすべてが、たった一人に変えられている。そんな気がしてならない。
休み前でさえ、その影響力を思ったのに。
学園に帰ってきた兄貴は、兄貴だったけど、兄貴じゃなかった。
何一つ、その一人に向けるものは変わらないのに、すべて違って。
さみしいのだろうか。いや、それだけでなく、判然としないモヤモヤした何かが、俺の喉に引っかかっているようだ。
俺はわからなくなる。
だから、俺は兄貴のすることに介入した。
まだ、兄貴は俺の兄?
それとも、ちがうものになってしまった?
それとも、俺が、ちがってしまった?
兄貴はいつまでも、俺の兄であるのは確か。
しかし、俺はわからないながらに今までと違う何かを感じ取ったのだ。
その違いに、モヤモヤとした気持ちと、いらだちを覚える。
なぁ、どうしてなんだ?
置いてけぼりを食らった子供のように、呆然と。