180度どこを見渡しても、木、木、木…という森の中、走る走る、罠にかかかる、逃げる、走る、逃げる。
もう疲れたなぁ…とぼんやり考える。
トーナメント予選は、いつもどおりならトーナメント表をもらって、ひとりずつあたっていくというものだ。
今年はトーナメント表の掲示がないなと思っていたらこれだ。
急にいつもトピックスとかを映してくれるチャンネルのみならず、ありとあらゆる対応機種に放送を流し込むなんて、犯罪ですよ。プライベートも無視。っていうのもお構いなしだ。その上で、会長が映った画面からこう告げた。…字幕つきだった。
「今から、トーナメント参加者の数を減らしてもらう。トーナメント参加者は次の授業時間までに掲示された場所にむかえ」
行きたくないなぁと思っていても、組手の授業中良平に捕まり、風呂場に転がされ、結局、指定の場所まで飛ばされてしまった。
追求が一枚噛んでくれたらしく、俺が何か操作しなくても、勝手にシステム発動して目的地に飛ばされた。
いや、会長がありとあらゆる対応機種に現れた時点で、奴が一枚かんでるのは予想していたが。
金のためなら…というより、自分の探究心を満たすためには金が必要であるということを知っている追求は、何かと言っては金稼ぎをする。生徒会企画はいい金稼ぎだと柔らかい口調で言ってたときは、悲しい気分になった。
そうして俺は、結局、トーナメント予選に参加させられている。
さっさと適当に負けて戦線離脱してしまえばいいのだが、適当すぎると、いつもどおりトピックスにさらされ教師にネチネチといびられるため、それもできない。
目立つことさえしていなければ、画面に大々的に映ることはないのだが、有名人であるため、目立たなくともカメラに追われている。
そうでなくても、ログ自体はどの生徒も残っているため、教師は閲覧自由だ。
どんなイベントごとでヘマをしてもチクチクチクチクいびられるので、適当にも真剣である。
今のところ誰も撃破せず逃げているのだが、これは撃破を競うものではない。トーナメント参加者を体育祭本番までに減らすものである。
残ってしまったら、本番で戦わねばならない。
俺はライカとフレドをしまい、魔法石を取り出す。
わざと負けるにしてもせっかくなので、狙撃の練習でもしようかな。と俺は、銃を召喚した。
長距離狙撃銃、愛称ナリア。夏休みも佐々良に使われていた狙撃銃で、今まで名前は付けてなかったんだけれど、お付き合いも長くなってきたしそろそろね。と名前を付けた。
銃に名前をつけ始めたのはどの距離から撃つかということをわかりにくくするためと数字と型番で違ってくる銃の種類を記憶するのは面倒という良平との間で使うためだったんだけど、付け始めたらなんだか楽しくなってきて、というより、付けると愛着がわくものだから、最近ではお付き合いがながくなってくると付けることにしている。
ナリアは小型の長距離銃だ。
動きながら撃つということに特化していない狙撃銃を、何を思ったか動きながら撃つということに対応させようとしてつくられたもので、初期は最小限、最低限を目標に作られていた。
最低限の長距離と言われるだろう飛距離、長距離銃最小と言われる限界。
そこに挑んだらしい。
しかしながら、人というものは貪欲だ。
飛距離を求め、軽さや、小ささを求める。
可能性を求める。
そうして、現行より二つ前のモデルとなるナリアは銃弾の特殊化、銃に使う金属の配合…等色々考えられ、初期モデルよりは大きく、普通の長距離銃にしては小さく、軽く作られている。
猟銃ほどの大きさならば持ち運びは難しくない。
ナリアはその猟銃より少し小さく、特殊銃弾の大きさに合わせ銃口も小さい。
細長い筒がついている、木製グリップのちょっと上品に見える銃。という形状をとっている。
このシリーズの最新作も欲しいところなのだが、シリーズ中なにより好きなのが、今、ナリアと呼んでいるそれだ。
性能より、形状に惚れ込んだそれは、性能的にも申し分なかったのだ。文句なし。とは言い難いが、不満もない。
そういう出来だったのだ。
俺は、そのナリアを手に息を大きく吐く。
この辺は、身を隠すには適しているが、狙撃をするには遮蔽物が多過ぎる。
集中するには人の気配が多いそこで、俺は心の中で数を数える。
集中するは、一点数秒。
撃つのは、まず一人。