あー、楽しいなぁ。
なんて思う俺は戦闘狂ではない。
ないのだが、ギリギリの戦い、駆け引き、それらは楽しい。
寮部屋争奪戦のときはあっさり負けた。
面と向かっては、久しぶりの一織との戦闘。
相変わらずの相手を接近させないことに終始する俺は、左手にライカ、右手にナリア。
長距離銃であるナリアには銃弾が二つ収まっている。
俺はナリアは撃たずに、ライカを撃つ。連続射撃ができるオートマ。次から次へと8連射。弾倉が軽くなれば、弾は詰替。それを繰り返しながらの牽制。
あちらが森の中で隠れ放題ならば、こちらも隠れ放題。
狙撃するには遮蔽物が多過ぎるこの場所は、盾にするべき木も多い。
弾がなくなるたびに隠れつつ、相手と距離を取りつつ。
俺に有利に働くこともある。
だが、あちらにもその条件はあるわけで。
まして一織は銃の弾などどんどん弾いてしまい、避けてしまう人間だ。
普段から牽制にしか使えてない俺にはちょっと不利というか、だいぶ不利なのではないだろうか。
しかも、今回持っているのは、ライカとフレドという黄金コンビではなく、ライカとナリアだ。
連続攻撃も緩いものだと思う。
しかし、ナリアを持っているのには理由がある。
「…本気を出せ」
「それなりに本気だが?」
俺はライカを連射して、目を細める。
ナリアは目的があって出しているのであり、けして手加減であるとか撃破されようとしてわざとであるというわけではない。
俺もどうせ撃破されるのならやりたいことというものがあって、これをしているわけだ。
そんな試しをしていると、いつもの一織ならさっさとトドメをさしてくれるのだが、今回は、俺の手加減としか思えない行為が気に入らないのと、交戦中に割って入ってくる一年たちを処理している関係で、今までもっている。
端末に表示される数が時間を数えるみたいにくるくると変わる様子に肝が冷えるが、トーナメント本選の最終参加人数はたったの30だ。まだ、二桁に突入したばかりの今なら平気だろう。
俺は攻撃してくる一年にライカとナリアを持ち替えたあと攻撃する。
ライカから発射された攻撃に当たって離脱していく後輩。一織が一年生に邪魔されているように、俺にとっても一年生は邪魔でもあるのだ。
「利用するだけ利用して、ポイか?」
「悪いだろ?」
なんて余裕で返すフリをしながら、俺はまたライカの引き金を引く。
一織はうんざりしたように後輩にナイフを投げた。
ナイフを投げる暗殺者なんて珍しいから、後輩は驚愕の表情で消えていく。
俺の銃弾の中、避けたり弾いたりしながら、左手でもナイフを投げられる一織には正直、驚愕どころじゃない。顎が外れて戻してもさらに外れるくらいの驚きだと思う。
利き手でない手でそれくらいできるって何事だよ。ほんと参る。
ライカの引き金を数回引いたあと、俺は、ナリアの引き金に指をかけ、力を入れる。
狙いは一織の腹あたり。
ナリアは長距離銃だ。
たとえ軽量化されようと、特殊な弾を使おうと、長距離、弾を飛ばそうとする反動は中距離に使う銃のそれとは比べ物にならない。
ナリアの次の型はそれを軽減したのだが、飛距離が落ちている。
そして最新型はその飛距離をのばしている。
持ち運びする長距離狙撃銃として、色々試みているため、毎回、銃器マニアに色々言われるシリーズ。
とにかく、持ち運びという点を考えて作られているシリーズであるため、それでも反動は長距離銃の平均的な反動よりは軽いものだ。
しかし、片手で撃つには厳しいといっていい。
猟銃も狙いは甘くなってしまうものの、なんとか片手で撃てるといった具合の俺には荷が重すぎる行為のはずだ。
しかし、俺は、もうひとつの右手という支えではなく、特殊な支えをナリアに取り付けることによってつくり、反動を抑えた。
「展開!」
ナリアのグリップの一部に取り付けられた取り外しのできる小さな魔法石は反動を吸収するクッションを魔法で作り出す。
この魔術式は俺が考えたものではない。もちろん、良平が考えたものでもない。
実は、こーくんと母が考え出したものだ。
もともと、衝撃を吸収するための魔術はあるため、そんなに難しいものではないらしいのだが、夏に、研究室で母と唸りながら考えてくれたようだ。
良平がアクセサリーにして魔法石を持ちたいといったことを告げると、こーくんはさっそくそれを作ってくれて、魔術式付きで俺に渡してくれたのだ。
俺は実験を行うのが仕事みたいなものだし、これが成功したというデータとレポートを渡せば、良平に提案代として杖の代わりの魔法石のアクセサリーが手渡される予定だ。
なんにせよ、実地試験に入る前に実験はされているのだ。不発や不良ということはなく、完全に俺は得した形になる。
良平は身につけるタイプのアクセサリーの話をしていたのだが、俺に渡されたものはちょっと違う。俺に渡されたアクセサリーはグリップに付けるために作られたものだと、俺のアクセサリーを持ってきた配達人はこーくんに言伝られたと言っていた。
もし、ストラップを付けるような場所があれば、ストラップになっていたのだろうなと思いつつ、俺はその魔法の優秀さに、口角を上げた。
意外とブレない。
一織は避けようとしたが、避けきれず、剣を動かす。
それも中途半端におわり、一撃入った。
長距離銃は中距離用のそれより早い。近くにいるならあっという間どころでもない。
「なんだ、それ…ッ」
「……魔法、かな?」
からかうように笑いつつ、体制が悪くなった一織に、ライカを向ける。
さて、この人どこまで避ける?防ぐ?追い詰めることができる?
勝負は一瞬だ。
だが、一織との勝負において俺が真っ向から、俺自身の力だけで勝てた覚えはない。
油断は禁物だ。
ライカが銃弾を吐き出し、一織がその銃弾を、弾く、避ける、一撃、ニ撃、三撃目は当たって、これで着弾は二つ。
四発目でトドメといきたいが、ライカの弾倉に弾は残っていない。
ライカをホルスターに落としつつ、ナリアを一織に向け、薬莢を落とす。
その流れるような動作の短い時間で一織は俺から距離を取って木に隠れた。
怪我をしても、冷静な判断をし、さらに動きが鈍らないのは流石だ。
木に隠れたのは、俺の弾から逃げ切ることができないと判断したためだろう。
ナリアは使える。
初動と弾数さえ気をつければもっと上手いこと使えるはずだ。
「あ、やば…残ってどうする」
楽しさのあまり一織を追い詰めてしまったが、本来の目的はそれではない。
チラリとみた端末の画面は…やばい、もうあと20で参加確定だ。
一年は大方片付いてしまっているだろう。
トーナメントには毎年、一年は出られない。
何故なら、一年は二年生と三年生によって、大方潰されてしまうからだ。
不発と言われている俺達二年生ならまだしも、当たり年と言われている三年生相手では、一年生なんてものの数にも入っていない。
どうやって、潰されようと考えるものの、一織は慎重に身を隠すどころか、気配すらないし、もしかしたら、居なくなってるかもしれない。
俺と一織は距離や武器こそ違えど、実力が拮抗していると言われている。
距離を取ったら、一織が負けてしまうし、距離を狭められると俺が負ける。
本来ならそうであり、できるだけ避けるべき道である俺と一織がこうして実力が拮抗しているなどと言われるのは、中距離から近距離で戦うからそういわれてしまうのだ。
俺と一織が中距離でいい感じで戦うためには、俺が一織を牽制し、一織が俺に距離を取らせない必要がある。
それができないと判断されれば、どちらかが負ける。
そして、今回、一織はそう判断したようだ。
「もうちょっとちゃんと計画しておけば…」
試しとかやっているから、また、離脱するのに難易度が上がった。
こうなったら、三年生を探して飛び込んでいくしかない。
俺は三年生を探し始めた。