三年生にターゲットを変えたといっても、信者をつけている三年生を狙うほど俺も馬鹿ではない。
今狙われることは、それこそ本望というやつなのだが、後々、もしかしたら先輩方が卒業しても狙われ続けるのは嬉しくない。
そういうわけで、俺はどんどん減っていく残存数を横目に木々に隠れ、フラフラと三年生の気配だろうと思われるものに近づいていた。
気配はそんなに隠していないし、見つけやすいものだろうに、誰も俺に近寄ってくれない。
罠だと思っているのかもしれない。残念ながら、罠は一つもない。これが普段の行いというやつなのだろうか。悔しくなんかないぞ。
「もうすでに二桁か…クソ…」
俺がフラフラしている間にも他の連中は頑張る頑張る。
一時は秒数のように残存数を刻んでいたカウンターも、二桁に突入し、ある一定までくると緩やかになってきた。それでも、数は減る。
一年生の有名人以外は、あっさりと居なくなってしまったし、今は一年生の気配がしない。ただ、三年生は結構残っている。
ご多分に漏れずハズレ年とされている二年生は既に、俺の知り合いしかいない。
つまるところ、残っているのは三年生ばかり。
だというのに、行く先々で知り合いの気配がする。
俺を邪魔するように、三年生を散らしている。
どうやら俺の知り合いはどうしても俺に、トーナメントに出場してもらいたいらしい。協力体制で三年生や一年生を散らしている。
気配を消さなくても、消しても、近寄る人間がいないというのなら、俺は、二年の知り合いに邪魔をされないように、気配をじわりと消すことをえらぶ。
徐々に徐々に弱くなっていく気配に、あいつらも俺を警戒するだろうが、俺もこのままトーナメント出場だけは避けたい。
完全に気配を消してしまう前に、俺は駆け出す。
交戦中の三年生を見つけたからだ。
あわよくばそこに突撃して離脱させてもらおう。そう思い、俺は全速力で走った。
いくら気配を消そうとも、いくら気配が読めなくても、視界にその姿を捕捉しているのなら、なんら問題はない。
「簡単に引いてくれたなぁとは思うとったよ…」
あのあと、三年生の中に飛び込もうとした俺より先に三年生を倒してしまった一織に俺はブツブツと文句を言う。
俺は一織の気配が読めない。
それは一織の努力の賜物であり、俺の気配を読む感度がまだまだであるということを指す。
それを利用して、一織は俺を発見した時からずっと俺を追いかけてくれていたらしい。
「やけどさぁ…なんで、そうまでして俺と戦いたいん?あそこで決着つけとくべきやったんちゃうん?」
あそことは、もちろん、ナリアで一織を追い込んだ時のことだ。
追い詰められた一織は一旦、俺から目を離さないように気配を消して遠ざかると、俺をある一定の距離を開けて追いかけ、二年連中が散らせなかった分の三年生を散らす役目をまっとうしてくれていたらしい。
お陰様で、最終的には一織と隠れんぼ鬼ごっこをすることになり、俺は結局トーナメント本戦に出場することとなった。
「もしかして、皆に倒しましたって見てもらいたいのんとちゃうよな?」
神経を疑うといった風に視線をむけると、一織は軽く首を振った。
「俺はただ単に…」
言いかけて、一織はもう一度首を振る。
「そう思ってくれて構わない」
「わー…すっきりせん答えー…」
それを追求するような俺でもないのだが、すっきりしないものはすっきりしない。少しモヤモヤとしたものを腹の中に感じつつ、俺は、気持ちを切り替えるべく、尋ねる。
「ほんで。三十人の中に、皆のこれたん?」
出場権利を持つのは、武器を選択した連中のみ。
事前にきいたところ、良平、青磁、将牙、佐々良、双剣、舞師、一織は参加すると言っていた。
一織は最後まで俺の邪魔をしていたことから、残っている。
良平も残っているに決まっていると、勝手に思っている。
将牙は何かうっかりすると残っていないかもしれないが、そんなにうっかりしていては有名人には不名誉な有名人になりはしても、手ごわいとか言われることはない。ソレの双子の兄である舞師もそうだ。
佐々良と双剣は根性悪だから残っているだろうし、青磁に至っては主人に何か言われない限りしつこく主人に張り付いている。
だから、こうして一織に確認をとるのはあくまで、話を変えるためだけの作業のようなものだ。
「当然」
先ほどの言い淀んだ様子とは違って、きっぱりはっきりとした答えが返ってくる。それでもやはり腹のなかにはモヤモヤがある。
自分自身の中で切り替えができてないらしい。