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叶丞くんはやはり、寿の弟だった。
人の考えを先に先にと予測して動くくせに、妙なところで大雑把。何かあったときはあったときと腹をくくっているのか、物事を軽視しているのか、危機感がないのかはわからないが、小さく見えることは放っておく癖がある。
小さく見えることがいつか大きくなることだって、往々にしてあることだろうに、二人揃って小さなことは無視をする。
そのくせ、その小さな事を何一つ忘れていない。
記憶のどこかにそれがあって、引っかかりがあればすぐにでもそれを出してきて対応してくる。
二人は厄介なといわれる類の人間だ。
小さなことにも大きく構えているのかもしれないが、それは怠慢だとも傲りだとも思える。
しかし、その怠慢も傲りも、自らの許せる範囲内でしか発動しない。
もし、許されない範囲にそれがあるのなら、たとえどんな小さなことでもすぐさまつぶしにかかる…否、小さいからこそ、小さいうちに潰してしまうのだ。
僕は、その二人の許せる範囲、もしかしたら気に留めることさえない範囲の出来事でしかないのかもしれない。
いやにあっさり、僕の考えることに応と頷く。
僕が編入するから、荷物を届けるよと言った時の寿もそうだし、僕が荷物を届けにきたときの叶丞くんも、僕に何一つ尋ねることなんかなかった。
僕が編入したことも、僕が秘密にして欲しいといったことも、彼らにとっては大したことじゃない。
その通りだと思う。
僕は彼らにとって大したことはしないし、しようとも思わない。
僕のしようとしていることは大したことではないし、彼らには関係のないことなのだ。
しかし、叶丞くんが友人を大切にする限り少しばかり関わってしまうかもしれないし、寿が叶丞くんを可愛がり過干渉する限り、当然のように関わらなければならないことなのかもしれない。
それでも、二人が気に留めるようなことではない。
僕は確信している。
人によっては大事件なのかもしれないが、大多数にとってそれは『そんなことがあったんだね』という程度の出来事にしかならないだろう。
僕にとって大事なのは、その大事件になってしまった人達であるし、その人達のことが大切な僕が、その人達を傷つけることもしない。
僕がしたことにより結果的に傷ついてしまったとしても、他人が干渉してその傷をどうこうしようとは思わない類のものだ。
それに干渉していいのはきっとごくごく親しい人か、加害者にあたる僕くらいのものだ。
大したことじゃない。
けれど、僕にとってそれは大層なことだ。
ここに、この場所に、この学園に戻ってきた時点で、僕にとってそれは、既に大層なことなのだから。
「君は相変わらずだと思ったことだよ」
「なぁに言ってんだか。俺がなんかする前に、決めてたんだろう?お前こそ相変わらずだ」