最初は各選択の強制参加種目だ。
俺ならば射的。
転送ゾーンに入ると一気に目的のフィールドへと飛ばされる。
射的をするフィールド…この場合、訓練場といったほうがいいかもしれない。それは、毎年決まっている。
今年も学園の気まぐれがなければ、俺も授業外でもよく使う場所だ。
屋外と屋内、両方が用意されている訓練場だが、今回は屋内、屋外すべてを使い、各学年ごとに射的をする。
今回、俺は屋内。
ある一定の距離をおき、各人が所定の位置につき、的を撃つという至って普通の射撃訓練場だ。
体育祭競技の射的は、その名の通り、弾を的に当てるだけの競技だ。次から次へと出てくる的を六発、撃つ。
的が出てきてから撃ち終わるまでの時間、的を撃った時の中心からのずれなどを計測し、それがより正確でより早い者が勝者となる。
そのため、去年、早撃ちは学年一位どころか銃選択で優勝した。
誰の邪魔も入らず、動きもしない的を撃っていくのだから、簡単といってもいい。
ちゃんとした競技のように誰かにプレッシャーを与えられることもなく、人数もあっておざなりになってしまうこの競技ではリラックス具合も違う。
距離は定まっているし、屋内にいたっては天候さえ関係ない。
この学園の銃を選択する人間ならば、誰もが楽勝と声を揃えるモノに違いない。
それで勝敗を決するのは難しいとも思えたがそうでもない。
的は魔法と機械に管理されており、出現速度はバラバラで、その的がセット位置から出てくる瞬間から一秒を数える。
的は動かないし、距離も変わらない。しかし、出現位置は同じではない。
より正確に、より早く。
的の位置を把握して、撃つ。
ちなみに、弾が的に当たらなかった場合、その時点で失格。また、的は出現時間が決まっている。時間内に撃てなかった場合も失格だ。
こうなると難易度が容易にあがる。
焦るやつも出てくるかもしれない。
これがまた教師陣に、失格するだなんて銃選択の名折れだとか脅されているため、一年生は違う方面からプレッシャーを受ける。
二年生はその点落ち着いたものだ。
「ういーっす、反則」
「隣とかやめろよ、酷いプレッシャー」
隣にわざわざやってきた早撃ちを見ることなく、俺は耳をおおうためのヘッドフォンを首にかけた。
「えーそうー?俺は、そうでもないんだけどー」
「おいおい、去年の優勝者様は違うな。余裕だな」
同じく、ヘッドフォンを首にかけた早撃ちが笑った。
「去年さー、誰かさんが十位にも入ってなくて、俺びっくりしたんだー。だから、今回は隣に陣取ってみました」
隣にいても俺を見ることはない。
余計なことに集中を取られるからだ。
だからこそ、ランキング上位であるとか、去年射的で活躍した人間の傍に誰もが行きたがらない。
俺と早撃ちのまわりには、三年生しかいない。
「俺の実力だ」
「まったまたぁ」
俺はヘッドフォンをつけて、銃をかまえる。
最近、中距離で銃を撃つことが多いが、もともと俺は長距離を得意としていた。今は超長距離、中距離ともにそれなりにやっているが、長距離狙撃が一番得意なのは変わらない。
今回の射的は中距離。
長距離や超長距離を得意とする生徒もいる中、常にこの競技は中距離だ。
言ってしまえば土俵が違う。
俺は正確に撃つ、計算して撃つということは得意だ。
しかし、速さという点において、鈍速に入るのも確かだ。
ヘッドフォンに機械音が響く。
それが合図となり、皆射撃をはじめる。
最初の的の端を視界に捉えた瞬間照準を合わせる。
的が停止する位置を計算し、的の中心が来るだろう場所を狙い、撃つ。
俺はそれを繰り返し、六回行う。
結果は解っている。ずれることなく同じ速さで正確に中心を撃ちぬく。
それは去年と同じ結果。
俺よりも早く射的を終わらせていた早撃ちが、目を丸くしてこちらをみている。
俺のヘッドフォンを引っ張って外し、唇を尖らせた。
「あれじゃ、優勝はできないってー。でも、スゲー正確。いやみたらしいくらい」
おそらく、早撃ちは的を見つけ、的の中心が出てくるその瞬間を狙い撃っている。
俺は確実性をとって停止位置に銃口を向けるが、速さは早撃ちの方法のほうが格段に早い。
的を見つけるのも早ければ、引き金を引くのも早い。
なにより、自分の限界速度というやつを早撃ちは知っている。
弾が発射され、的に届く速度を遅くもなく、早くもなく、タイミングよく利用している。
そのうえに正確に中心にあてる技量もある。
だからこその、『早撃ち』なのだ。
「どっちが…。どうせ後でトピックスに流れるだろうが、あんな安定しない的撃つなんて尋常じゃない」
「そっちこそよくいうよ。止まる位置、時間を計算して撃っておくとか本当さぁ…計測器が狂ったとしか思えないくらい同じ秒数で撃ち抜かれてるとか…ほんとさー計測器より、気が狂ってる」
「…狙撃はわりと得意なもんで」
狙撃は、動くものを撃つために発展した面がある。
特に遠距離からの狙撃は、そこと決めた位置、瞬間で一発勝負を仕掛けるところがあるため、動きが止まったその一瞬を息を潜めてまつ。
この射的も似たような感じでクリアした。
「あーあー。勝負はしないタイプだよねー反則って」
「それはそうだろう。クリアできたらいいんだから」
俺にとって、射的の勝敗はどうだっていいところなのだ。
「なんっていうか、仕事できそうだよねー反則」
「気のせいだろ」
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