俺たちがグラウンドに戻ってくると、射的の結果が発表されていた。
臨時でグラウンドに出された巨大スクリーンに、今回の優勝者も早撃ちであることが示される。
ちなみに俺は十位以下であるためランク外。
詳しいランクや記録は、体育祭終了後携帯端末にお知らせが届くようになっている。
まったく余計なお世話である。
「次はなんだった?」
俺がグラウンドにかえってきてすぐ、人形使いに尋ねると、人形使いはプログラムを携帯端末の画面に出し、ページをスクロールする。
「剣選択の人斬り無双だよぉ」
競技名からして明らかに怖い競技である。
人斬り無双はその名の通り、剣の種類を問わず、どんどん人を離脱させ、最後に残った人間が優勝となる。
去年の優勝者は卒業してしまったため、競技の結末は予想できない。
「そのあと、魔術選択による魔法のドンパチと、法術選択による精神剥奪かな」
ひどい競技名であるが、その名前の通りの競技である。
魔術選択の人間は魔術をぶつけ合い、やはり最後に残っていたものを優勝とし、法術は精神に作用する法術を掛け合い、ガードしたり、瞬時に治したりして、最終的に法術のかかっていない者が勝者となる。
「…人形使いのドンパチの優勝者予想は?」
「んー…今年は焔術師じゃないかなぁ…。焔術師って、学園で力の保有量一番なんだよぉ?…魔術師の成績一番ではないんだけどねぇ」
力が大きいということが必ずしも成績の良し悪しにつながらない例のようなものだ。
「そうかもな…。でも、それなら、三年生方もかなり…」
「猟奇って言わないのぉ?」
「猟奇は参加してないからな。…魔術の選択じゃなくて、あいつの場合は魔法武器だから」
「あ、そっか」
そうはいったが、たとえ良平がドンパチに参加できたとしても、優勝は無理であっただろう。
どんなに素早い展開ができても、どんなに結界が固くとも、どんなに魔術を壊そうとも、ドンパチのルールがそれを許さない。
魔術をぶつけ合わなければならない、この競技は、魔術で戦うことではなく、魔術という形にした力をぶつけ合うという形をとっている。
力の保有量、瞬発力、持久力が問われるのだ。
「で、人形使いはどれくらいのものなんだ?」
「僕はねぇ…保有量はそこそこあるんだけど、どうも瞬発力がなくてぇ」
「なるほど、頑張れよ」
「うん、そこそこねぇ」
人形使いのスタンスは、俺に少し似ている。
勝利ではなく、クリアが目的なのだ。
実は各競技にはクリアラインというやつが設けられている。
これにカスリもしない奴は退校になるという噂まであるのだが、真実かどうかは解らない。しかし、この学園ならやりかねない。
だから、多くの競技に参加するより、少ない競技を集中してやったほうがいい。
そうすると強制参加競技以外の人気がなくなりそうなものだが、参加しクリアラインを越すともれなく単位がもらえ、成績優秀者には特典まであるため、クリアできるとおもえば参加する者は多い。
ちなみに、色の関係で強制参加させられた者には別のクリアラインが用意される。このクリアラインは超える必要はない。しかし、クリアラインを超えると特典はついてくるので、できるようならクリアしたい。
特典は競技によって違うが、今行われている人斬り無双の特典は奇跡の宝剣と呼ばれる剣で、この特典はもらうためにもクリアラインというやつが設けられており、未だその剣を手にしたものがいない。
そして俺が参加していた射的は、優勝者の愛用の弾をたくさんプレゼントというもの。消耗品のため大変助かるプレゼントである。
「そうだ。魔法系の特典ってなんだ?」
「あ、それね。有名な魔法使いにご教授いただけるんだよぉ。一対一でぇ」
「それは血眼になるだろうな」
どおりで毎年、魔法使いたちはやたらと競技の時に必死になっているわけである。
「特殊武器とかぁー魔法武器とかぁーあの手の特典のがぁ、僕はきになるぅ」
俺もそこは気になるところなのだが、特殊武器は青磁が良平の命令をもってしても言わないという大変な特典である。
一方魔法武器はその特性のせいなのか、それを選択している人間の性質のためか面白みのない特典だ。
いや、銃選択も面白みはないが。
「特殊武器は知らないが、魔法武器は、単位がさらにもらえるそうだ」
そうして単位がとれた分は他の授業なり、研究なりに消えていくわけだ。
「なるほどねぇ…。あと槍とか斧とか…」
「あの辺は剣と変わらない。伝説の武器授与。そして未だに授与された人が…あ、槍はいたな。槍走がもってるはずだ。ということは今年は変わってるってことか」
「えぇ…なにげにさらっとぉ…怖いこと聞いちゃったぁ…。僕らぁ、戦っちゃったじゃない」
まさかそんな伝説の人だとは思っていなかったようだ。
三年生は当たり年と言われていて、槍走は三年生でありながら生徒会役員だ。
三年生は実習や演習のため、基本的に役員にはされない。
それなのに槍走が役員であるのは、どうしても役員になってほしい成績優秀者だったためだ。
案の定ダブル専攻だという。
「三年生本気だと、相手にならない二年生、手こずる一年生といわれてるくらいだ。どの三年生の有名人があたっても、だいたいは似たよな結果だったと思うが」
「あはぁ。でも、僕はぁ、いい結果だったと思うよぉ。ちょっと、三年生も先生方も二年生を侮りすぎだよねぇ」
そのとおりなのだが、侮りたいのなら侮ってもらって方が楽だ。
この辺の感覚は人形使いよりも、追求と共感ができる。
俺はそうだな。と頷いて、いつの間にか終わっていた人斬り無双の結果を見る。
それとなく背後から近寄る気配を感じながら、いつも背後から襲ってくる友人を確認してみたが、友人はランク外。
二年生はまったくそこに入っていなかった。
「暗殺者でも入らないのか」
「あれに入るのは剣の達人だけだ」
背後から聞こえる声に、俺ではなく人形使いがびくりと身を震わせた。
「気配、気配がなかったよぅ…」
「いや、ちょっと漏れていたぞ」
俺はしっかり暗殺者の気配を捉えていたため、驚かなかった。
「そんなのわかるの、君くらいだよぅ…銃選択の奴らぁ…みんな、変態だよぉ…」
何気なく酷いことを言われた気がするが、気のせいとしておきたい。
結果だけいうと、二年生で強制参加競技の優勝を手にしたのは二人。予想通りの早撃ちと焔術師だった。