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風紀副委員長に脅されるという、この学園ではそう珍しくない事態に陥った俺は、改めて通知された決闘の内容と通知方法に首を傾げた。
「なんでボードゲームなん? しかもなんでこんな人目につく方法なん?」
食堂の大画面で、今日の休講情報と一緒にテロップとして流れていく様子は、首を傾げること以外を放棄させる。あまりに大々的過ぎて現実味が薄いのだ。
「おーおー。また派手だなぁ。ま、資格とやらの有無を皆に知らせるには良さそうな感じではあるか」
良平がテロップを読んだあとで、朝からデザートのアップルパイにバニラアイスを乗せる。黄金色のパイ生地に少し溶けたバニラアイスが実に美味そうだ。俺が手を伸ばすと、良平は皿を俺の手から逃がした。いつも通りの食卓である。
だが、非日常なテロップは何回目かの決闘の告げていた。
「そうかもしれんけどさぁ……」
良平は煮え切らない気持ちでもやもやしている俺を哀れんで、アイスについていたミントをそっと俺の前にある皿にのせる。おそらく、ミントを食べる気が無かったのだろう。
俺もスイーツについてくるミントやサンドイッチに添えられたパセリは食べないので、気持ちはわかる。わかるから、これは本当のところ哀れみでもなんでもない。嫌がらせだ。そうでなければ俺の皿に乗せる必要が見出せない。
テロップのこともあり、そっと置かれたミントに虚しさがいや増した。
「当日、いい見物席空いてっかな。なぁ、関係者席とかねーの?」
「なんやねん、どの辺りが関係しとんねん。関係者いうたら、副会長と副委員長と薄青同盟くらい……多いわ!」
副会長と副委員長だけならまだしも、薄青同盟は比較的大きなファンクラブだ。顔がいいというだけで薄青同盟のようなファンクラブは出来るものなのだが、副会長はそれに加え爽やかな好青年男子である。薄青同盟の人数は副会長の兄弟であり、顔が良く似ている会長のファンクラブより多い。だから薄青同盟を含めると関係者が多すぎる。
すぐに気づいて自分自身でツッコミを入れてしまった。
「空いてなさそうだな。仕方ねーな。副委員長あたりをゆすっておくとしよう」
「どうゆする……青磁やな」
「ん。権力持ちの犬って最高だな」
青磁が聞いたら一も二もなくさまざまな権限を手に入れてきそうである。良平が権力があろうがなかろうが態度はかわることがないことを知っていながらやってしまう青磁を、良平はハウスと言いながら可愛がるので独り身のこちらはやっていられない。
「でも、ばれたら面倒なんちゃうん?」
そう、俺が副会長とぶつかっただけでこうなのである。眉毛がなかろうと、主人に絶対服従姿勢を貫こうと、それ故意外と情けない姿を晒そうと、しかもその主人に邪険に扱われようと、青磁は人気のある生徒の一人だ。厳つかろうが、主人が関わらなければかっこよく見え、そのファンも多く、調子乗ってんなよといってくる連中もいる。
だから普段は面倒を避けるために人目があるところでは近寄らないように、良平は青磁に指示していた。
「そこはうまいこと運べよっていいこいいこしておく」
「あかんやつやないけ」
もはや、テロップで流れるボードゲームのことなど、良平のご主人様ぶりを前にどうでもいいことのようだ。
俺はため息をつき、良平の前の皿を見る。少し放置され、バニラアイスの形が滑らかになりすぎていた。良平はこのくらい溶けた状態でパイ生地にバニラアイスを吸わせながら食べるのが好きらしい。よく、そうやって待つ間に俺の話し相手をしている。
そして、ちょうどいい具合になるとアップルパイが食べ終わるまでは話を半分も聞かない。
俺は良平がアップルパイを食べ始めると、もう一度テロップを読むべく画面を見上げる。
そこには、近日中に新入生歓迎会のためにチームを組めという伝達事項も一緒に流れていった。
「あかん、新歓忘れとった……」