「新歓がどうしたって?」
 バニラアイスが溶けたので、食べることに夢中になり聞いていないと思っていたが、聞いていたようだ。しかし油断してはならない。良平のこれは聞きたいことしか聞かないそれだ。
「チーム、まだ決めとらんやろ。二人じゃあかんやろし」
 話はまともに聞いてくれないが、良平は本当に美味そうにアップルパイを食べる。口の中にできるだけ詰め込んで、頬を膨らませ食べるという食べ方だ。だが、パイ生地のクズすらこぼさない。
「ほー、一人は決まってんのか」
 その美味そうな様子を眺めていたせいだろう。良平の言うことが変に響いて聞こえた。
「何を他人事な」
 良平とはコンビを組んで約三年目だ。互いに何かと言っては都合良く相棒扱いしている。出会ったときから、良平に遠慮という言葉が存在し無かったため、気兼ねもない。しかし、仲がいいと言われると、文句の一つどころか言ったやつを正座させて文句を言い続けたいくらいだ。
 それでも相棒は相棒であるし、新入生歓迎会という新入生を歓迎する気がないイベントでも一緒だと思っていた。
「は?」
「ほ?」
 次に口に入れるはずだったアップルパイをフォークにさし、良平はそれを持ったまま首を傾げる。まるで俺の言うことなど微塵も理解できないという様子だ。
「もしかして、他人事なん?」
「まさか、お前、一緒のチームだと思ってたのかよ」
 良平は俺を鼻で笑ったあと、ようやくパイを口に詰め込み、口を動かし始めた。
「頭数入れとったわ。なん?他に誰かおるんかい」
 しばらくパイを口の中で楽しんだ後、良平はそれを一気に飲み込んだ。
「将牙(しょうが)」
 すぐに水を飲んだ良平のいう将牙という男のことは俺も良く知っていた。なんのことはない。同じクラスに所属している、ちょっと激しい友人だ。
「ああ、ほんなら、そこに俺も」
「いれねーな」
 なんとケチな相棒なのだろう。わざと口を尖らせてやると、同じような顔をされた。
 腹立たしさの頂点を極めそうな顔を見てしまい、俺もおそらくそんな顔をしているのだろうと気づく。すぐに口を尖らせるのはやめた。
「なんでなん?」
「お前をコテンパンにするのが将牙と組む条件だ」
 そんな条件を出さないで貰いたいものだ。除け者にされてしまった俺は、誰をアテにすればいいのだろう。普段の俺自身は友人が少なくないが、反則狙撃の俺にはほとんどいないし、恨みもたくさん買っている。
 新入生歓迎会は新入生がチーム戦闘を見物するだけのイベントだ。そのイベントに高等部二年は変装後の姿で全員参加だ。
 恨みを買っていようと売っていようと一人ぼっちだろうと、参加せねばならない。
「……良平くんはなんかな、俺に恨みでもあるんかな?」
「恨みがねーことはねーけど、コテンパンにしてぇのは、将牙くんダヨー。ヨカッタネー、叶丞くん」
 良平に搾取されるようなことはあっても、恨まれるようなことは一切ないだろう。それほど良平の俺に対する態度はひどい。
「よかぁないけど、なんちゅうか、良平がやな奴やっちゅうのはようわかるで」
「ひでぇな。そんなだから、会長にキモがられるんだろ」
 ひどいのはどっちだと反論しようとして、聞き捨てられない言葉が聞こえる。
 しかもこれが結論だと言わんばかりに、良平はアップルパイに集中しようとしていた。俺は皿を横から押して、それを阻止する。
「俺が会長に対してキモいっちゅうのと、良平がやな奴やっちゅうのはイコールちゃうし」
 良平はパイを食べる気満々であった。しかし、位置のずれた皿のせいでうまくパイにフォークがささらず、邪魔をされたのだ。当然のように不満そうな声を出す。
「じゃあ、お前がキモいのはなんだよ」
「恋」
 また鼻で笑われた。
 おのれ良平めと、俺が良平を恨みたいくらいである。
next/ hl-top