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「アヤトリくん変わったね」
学園の変装システムは完璧だ。
アヤトリが青磁であるということを知っている人物が、俺のことを青磁と呼んでもシステムが働いていれば『アヤトリ』と変換され、音が出る。
「…109番も」
俺がその人物を二つ名でよんでも、現在使われておらずシステムから登録された名前を消されていれば、その名前を発音させない。
今、俺が呼んだ人間はどうやら、出席番号が109番であるらしい。
「驚いた?戻ってきたよ」
そう言って笑った109番目の魔法使いに、俺は首を横に振る。
「否」
驚くわけがない。
夏休みにその顔を見た時から、佐々良がよからぬことを考えていると知った時から、予感していたことだ。
そいつはまったく変わり無かった。
成長したとはいえ変装前の姿は面影があるし、本人も特に変えようとしていなかった。
変装後の姿が変わらないのは、おそらく学園側のいやらしい処置だ。
一度学園をやめて戻ってきた魔法使いは、俺に微笑む。
「君はそんなにも変わってしまったのに、僕はこんなだよ?」
相変わらず嫌な学園。
言外に告げている言葉に、俺は首を横に振る。
半年だけ、そいつとはコンビだった。
それもこの学園の中等部での話で、良平さんと出会う前の話だ。
俺は情けないことに一年ダブっており、学園から退学させられる寸前だった。
捨てる神があれば拾う神があるように、学園から退学させられる前に俺を拾ってくれた良平さんに合わせたいがためにもう一学年遅らせ、武器さえも変えた。
特殊武器ならばある程度レベルを下げて見てくれることを知っていたからだ。
「効果的」
行き詰った俺とは違い、天才の名を欲しいがままにしていたそいつが俺の一言にさらに笑う。
「そうだね。僕の目的に沿うから、うん。いいか」
「目的」
俺は、そいつがここにきた…良平さんから離れている俺に会いにきた理由を促す。すると、そいつは頷いた。
「君にコンビを組んでもらって嫌がらせしたかったんだけど、君はもう、誰ともコンビを組みそうにないね」
俺はゆっくり頷く。
俺は良平さん以外とコンビ戦闘でコンビを組むことはない。良平さんは相棒を叶丞以外に求めることはない。
「うん、ま、それだけなんだけどね。あとは挨拶だよ」
そう言うとあっさり去っていくそいつの後ろ姿を眺めながら思案した。
俺の変装後の姿は武器を変える前と変えた後とでは違うものとなっている。
誰か俺のことを知っている奴が、そいつに俺の正体を教えたということになる。
そいつを見てからというもの楽しそうにしている佐々良が怪しいが、そいつがここに昔在学していた頃、親しかった友人は今でもこの学園にいる。
「……面倒な匂い」
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