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俺は友人の活躍ぶりに、顔を綻ばせる。
やはり、叶丞はすごい。
三年生すら煙にまいて、新記録を樹立して一位を獲得していた。
ご機嫌な気分で、追求の行っていた賭けのチケットを見る。
誰もをいなして一位入賞。
どれほどの一致で掛金をもらえるかは判らないが、あながち間違っていないので、少しはもらえるだろう。
俺は鼻歌を奏でながら、フラフラと追求のいる場所に向かう。
「…あれ?破砕?」
聞き覚えのある声だった。
懐かしい声だった。
かつて、兄の次に長く一緒にいた気の会う友人の、声だった。
鼻歌を止め、振り返り、声をあげた人物を睨みつける。
どうみても、それは、友人の顔をしていた。
どうみてもそれは、友人の形をしていた。
「…学園のお遊びかァ?」
「確かに、お遊びといえばお遊びかもね。早撃ちと追求と人形使いとアヤトリには挨拶したよ」
挨拶したということは、コレが友人ではない可能性は消えたも同然だ。
コレは、友人であるのだろう。
「…舞師には?」
「それはまだ」
明るく笑って楽しげにその場でくるりと回った友人に、俺は険しい表情をした。
「なんで今更」
「ん?そうだなぁ。ずっと、待ってたんだけど…」
舞師…俺の双子の兄である伊螺にとって、それはきっと複雑な感情を抱かせる言葉だ。
俺も伊螺も進級ができずに学園に留まっていた。
やめることもできた。しかしやめなかった。
「いつまでたっても来ないから、迎えに来たんだ」
俺にとってその理由は単純明快な引き算で、この学園に残ることで得られるものをとった。
しかし、伊螺にとってそれは難問で、足し算も引き算も出来ず、迷いに迷ってこの学園に残った。
伊螺は優柔不断だ。
「そういうのは、余計なお世話っつうんだよ」
本当は、どうしたかったなんてことは俺がよく知っている。
だからこそ、余計なお世話なのだ。
「そう?破砕は、変装後も変装前もはっきり言うね」
「俺にとって大事なのはそういうことじゃねぇからな」
「…そうだね、君は昔からそうだった」
笑う友人の顔に、『楽しい』という行為以上の感情を見つけて、俺は視線をそらす。
複雑にしているのは、優柔不断な兄だけではない。この友人も、良くないのだ。
「俺は、あいつの味方だ。あいつがしたいことを支持するぜェ」
「うん。結構だよ。僕の目的は、君じゃない」
いつの間にか握りしめていた賭けのチケットの皺を伸ばしながら、俺は再び足を動かす。
「あ、そうそう、賭け、勝ったの?」
「たぶん」
「じゃあ、今度奢ってね」
振り返らずに足を動かしながら、右手を軽く振る。
「気が向いたらなァ?」
何かしら問題を起こさないというのなら、そんなことは言わないず喜んでおごったのに。