将牙が人形使いの隣をなんだかんだとキープしたところで、俺は良平をスクリーン上に見つける。
魔法使い達は、ジャージはどこにいったのだと尋ねたいほどの変装をしていることが多く、魔法使いらしいローブやらマントやら、長衣やらを翻す中、良平はジャージのチャックを完全に閉め、面で隠しているにも関わらず、その表情が面倒くさそうにみえる姿だった。
地面に鉄の棒を突き刺し、もたれかかった良平には他の魔法使い達と格好が違うこともあるが、猟奇と呼ばれるだけある異様な雰囲気や、魔法使いらしからぬ気配もあり、誰も寄り付かない。
良平は後半戦に親しいやつは混じっていないのか、非常につまらなさそうに周りをそれとなく見ていたが、ふと、何かを見つけたようだ。
魔法使いとしては活躍していないが、それでも有名人ということで一応画面に映されている良平は、とても取り扱いが小さい。だが、良平がなんだか面白いものを見つけたのだろうことはなんとなく解った。
俺が、良平の相方だからかもしれないが、先ほどのだるそうな様子とは全く違って見えた。
良平の周りをぐるっと探ってみると、何か騒がしい一角を見つけた。
そいつは意気込んでいた。
今度こそ勝ってやると意気込んでいた。
なるほど、ここまで単純だと好感が持てるかもしれない。
半ばほどハイハイという気分なのだろうが、将牙を目の敵にしているあの魔法使いはやたらまっすぐな性格らしい。
「あ、あの子、猟奇くんにぃ、補習の時突っかかった子でしょー?」
漸くスクリーンに集中することができた人形使いが尋ねてきた。
「そ。夏休みから続く怨念だな」
「ふふ…変装あんなんでもバレバレだねぇ…。僕ぅーあの子とぉークラス一緒なんだけどぉー、あの子、変装前の猟奇くんのことーライバルだと思ってるみたい」
「…夏休みこてんぱんにされたからか?」
「んーん、夏休み前から。変装前の猟奇くんのこと、すごく気にしててぇー他のヒトが馬鹿にすると、その人のことすごく、馬鹿にするのぉ」
ある意味、良平を一番認めている魔法使いなようである。
自慢の相方をある意味褒めてくれている魔法使いに、俺は好感をもって、今度名前を聞こうと思ったところで、騎馬戦は始まった。
開始の合図とともに、良平は六つの細長い光状の何かを指の間に出現させた。
「武器化魔法?」
「ん、そう。猟奇の得意魔法」
「ここでも全力ださねぇんだな」
将牙が少し残念そうにそう言った。
将牙の言うとおり、良平は本気ではない。本気ならば良平にとって消費が少なく効率的な武器化魔法など使わない。
「…だが、猟奇は一番簡単な方法をとったのかもしれない」
俺はそう言うと、スクリーンを指差す。
良平は六つの細長い…おそらくナイフのようなものを投げた。そのナイフには糸のような細い、魔法で出来た何かが繋がれていた。
「あ、そういう操り方もありなんだぁ…完璧に武器科の発想だけどぉ…」
「猟奇はそのへん、色々考え方がひねくれてるからな…お、そろそろ例の子と衝突するぞ」
良平もあの魔法使いを気に入ったのか、面白いと思ったのか、まっすぐにあの魔法使いを目指していたため、すぐにあの魔法使いとぶつかることとなった。
例の魔法使いの駒は多かった。形も整えていない石がくるくると魔法使いの周りを回る。
「あの石礫操るのか。なるほど、削減に努めたな」
「意外と努力家だからねぇ…彼」
岩を魔法で削って礫を作り魔法で操るという手順を踏んでいた魔法使いの繰る石は単純にまっすぐにしか飛ばない。
しかし、数は非常に多かった。
良平は向かってくる石に構わず、ナイフを投げる。ナイフは的確に駒ではなく駒を操る魔法使いの急所を狙っている。
駒を使ってすべてを対処せねばならないこの騎馬戦では結界を貼ることができない。
駒を盾にするのだが、単純な動きをする駒をナイフが簡単に避け、魔法使い達を離脱させる。
「あの糸で単純に操ることもできれば、糸がつながっている範囲なら思い通り、ってところか?魔法だな…」
「単純な武器かと思ったのにぃ…意外と便利な魔法だったねぇ…」
そして、例の魔法使いにそのナイフが迫った。
例の魔法使いはナイフがくるタイミングを見計らい、魔法を展開した。
いや、石を繰ったといったほうが騎馬戦的には正しいだろう。
「石がナイフを挟んで固まったぁ!」
「すげぇ…意外と動体視力いいんじゃねぇの」
「なるほど、石は魔法でできているから、くっつくもくっつかないも自由か」
だが、ナイフが良平と糸でつながっている限り、良平もナイフを自由にできるのだ。
まして、このナイフは良平の武器化魔法だ、簡単に強度を上げたり、形を変えたりすることができるだろう。
「あ、ナイフが石から抜けたぁ」
「お、それでも抵抗するか。根性あんなぁあの魔法使い」
それでもなんとか石を操作してナイフの道を遮るが、良平は難なくそれを避け、ナイフを魔法使いに突き刺した。
「避けようとしたみたいだが、魔法使いだな。身体はそんなに動かない」
「うーん、魔法使いの課題のような気もするねぇ…そう言われると」
例の魔法使いが離脱してしまったのを見送ると、次に良平に襲いかかってきたのは一年生の有名人だった。
「わ。聴音じゃん」
「へぇ…珍しい人が参加してるんだなぁ…」