聴音は一年生の有名人だ。
その名のとおり、音を聞き分けることを得意とする魔術師で、法術を邪魔することを得意とする。法術師になったほうがいいと思われるほど法術の音を邪魔することを得意としているのだが、あくまで彼は魔術師である。
彼の出した駒は、球体の水。
時に形を変える柔軟な魔法だった。
「形がないも同然じゃねぇか。猟奇どうするんだ、反則」
「いや、相方だからって全部わかるわけじゃないんだが…」
当然のように聞いてくる将牙に苦笑しつつ、それでも、なんとなく良平のしたいことがわかっていた俺は、画面の端に取り残された良平の武器を指差す。
「あれ、なんだと思う?」
なんの意味もないのに、棒を地面に突き刺した状態にする良平ではない。
むしろ、邪魔になると判断したら持ち込むことすらしないだろう。
聴音の水から逃げつつ、他の魔法使いを離脱させつつ、良平が面の下で笑ったような気がした。
「お、展開したかな」
棒を中心に光の線が色々な方向へと発射される。
「これ…も…?」
「そう、これも武器化魔法。棒を中心に線なのか糸なのか…とりあえずナイフよりは操れないみたいだが」
それでも、最初から魔法として棒に止めておき、一言で展開させて、駒として使用している。
展開できていて、強制離脱させられないということは騎馬戦的に反則ではないらしい。
「うわぁ…すごい、いなくなったぁ…」
油断していたらしかった。
魔法使いが次々と離脱していく中、聴音がなんとか棒から出てきた光線に耐えたところに追撃をかけた良平は、猟奇と呼ばれるにふさわしい働きをした。
役目を終えた光線を聴音に次から次へと向かわせながら、ナイフを投げ、追い詰め、離脱させるという、それくらいにしてやってよという活躍ぶりだった。
騎馬戦の後半戦は猟奇に軍配があがるか。とも思われたのだが、そんなことは優秀な三年生が許しはしなかった。
結局、良平は三年生に追われ、騎馬戦中はなんとか残っていたものの、戦力を減らされ苦杯を飲んだ。
「やっぱりもうちょっと魔法のスリム化しないとダメだな…」
帰ってきてからそう呟いた良平はちょっとお疲れだった。



◇◆◇



スクリーンに映るリョウヘイを見ながら、俺はリョウヘイの相方である反則野郎を思い出していた。
先日からのモヤモヤとした気持ちは、体育祭で発散しても晴れることなく残っており、やつを思い出させることが起こるたび、やつを画面で見かけるたびに、俺をモヤモヤとさせた。
画面の外でも、兄貴を探せば、やつが近くにいる。
兄はそこまで、やつのことが特別なのだろうか。 …兄に聞くことは、それを決定づけるようでためらわれた。それほどまでに兄の態度はあからさまで、やつにしても兄の状態を理解した上で兄と接しているように見えた。
なぜ、やつなのだろうという疑問は、やつが反則野郎であると知った時から繰り返し繰り返し考えてきたことだった。
俺は兄のすべてを知っているわけではない。
しかし、俺は、兄とは違って反則野郎が、奴が、俺に接触してきた時間というやつが存在した。
それは俺が高等部の会長になって少ししてから、今の今までずっと、少しずつ、俺が、奴を気持ち悪いといって邪険に扱うほどの時間。
それがあるからこそ、俺は奴を兄の特別だと認めることができない。
できるはずがない。
俺にとってアレはただの、変態野郎で、反則野郎だと判明した今でも、その認識は変わらず更にひどくなる一方だ。
その一方で、あれを、認めている自分自身も確かに存在し、そう、それこそ、兄貴が特別とする前から、アレは。
俺はモヤモヤとした気持ちを忘れるために、スクリーンに集中した。
リョウヘイが三年生に追い詰められ、残存戦力を減らしているところだった。
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