その魔法が一番厄介なのに…と思いながらも、対面した友人に手を上げ、挨拶をする。
「よう、破砕」
「よォ、親友」
将牙と舞師は春までは同じ学年であったが、例の進級試験で三年生となっている。同じクラスで見かけることはなくなったが、交流はあるためついつい勘違いしてしまいがちなのだが、そう、三年生なのだ。
当たり年と言われる三年生と同じ場所にたっても、その名を消されることなく残している破砕である将牙と舞師。
バカ正直に正面からあたると、当然のように強い。
「試験以来だなぁ?」
「そうだな。卒試のほうは大丈夫か?」
「知らねぇ。学園が決めるこった。事前報告はねェんだろ」
グローブにしっかりと手を収めたあと、破砕は俺にニヤリと笑った。
「卒業できなかったら、またお前と一緒だろ?」
「ちゃんと卒業しろよ、座学もう一年やりたいのか?」
俺も魔法石を握りながらそう返した。
破砕が嫌そうな顔をした。座学はさっぱりダメな破砕らしい表情だった。
それと同時に開始のブザーが演習場、この場合会場と言ったほうがいいのかもしれない。…会場内に鳴り響く。
「展開!」
ブザーがなると、破砕が走り出す。
俺はそれに少し遅れて魔法石で銃を召喚する。
俺の部屋にあるはずのそれは、散弾銃。
俺は舞台に転送されたときに、これを使うと決めていた。
舞台は木造だった。
俺は破砕と俺の間の舞台に向けて引き金をひく。
引き金を引いて、ある限り銃弾を発射するそれを舞台に向けたまま真横にスライドさせていく。
「って、おい、この反則野郎!」
銃弾はもちろん、床となる舞台を一部破壊する。壊された床は空洞を見せた。
この舞台は少々…いや、随分高かった。
破砕は俺の開けた穴に落ちることなく後ろへ飛ぶ。
俺はそれを追うように、蛇行させながら弾が尽きるまで引き金をひいた。
「……足場が頼りねぇ…」
色々なものを破壊、砕くことから、破砕などと呼ばれている人間の十八番を奪って、銃弾を撃ちつくした俺は満足しながら銃を送還。いつもの相棒たちを両手に破砕を追い詰めることにした。
「こっちに来れないなら、狙い撃つのも簡単だろう?」
挑発だったが、破砕も伊達ではない。
「見える位置から向かってきた銃弾に負ける気はしねぇよ」
それを証明するように、俺が破砕が言い終わる前に撃った銃弾はあっさりとよけられる。またも後退して避けた破砕に、わざと距離をとっているのではないだろうか、と俺は推測した。
破砕は、助走をつけて、危ない足場を飛び越えるつもりだと予測できた。
そして、予測ができるということは対応もできる。
その上、それがチャンスだとも言える。
破砕はやってくる方向が解っている銃弾をよけることは簡単だといった。
確かに簡単なのだろう。
ただし、それは足場がある場合。
空中ならばどうだろう?
銃弾など弾くのが当たり前である上位ランキング連中ではあるのだが、空中で、しかも絶妙な位置からいくつも銃弾を浴びせられたらどうなのだろう。
たとえ、その攻撃をどうにかしたところで、目的の位置には着地できないであろう。
破砕も飛べば、俺の的になることくらい理解している。
俺はわざと後退した破砕を邪魔せず、走ってきた破砕も邪魔しなかった。
舞台から破砕が飛び上がった瞬間に攻撃を再開する。
「やるとおもってたぜぇ!」
破砕は攻撃をよけなかった。
「クッソ、予想以上にまっすぐか」
そして無理をしなかった。
完璧に俺の銃弾を避けることなくある程度は当たりながら、致命傷だけ弾く。
それによって軌道はほとんどそれなかった。
着地直前に俺が引き金を引いたため、少し着地位置がずれたが、破砕はそれを問題としない。
俺は走る。接近戦に持ち込まれては俺が不利だ。
接近戦は得意ではない。どころか、中距離戦も得意ではない。
いつになったら、俺は毎回不利だと思われる状況から解放されるんだろうと思いながら、一つ銃をホルスターに戻し、ナリアを召喚。左手に持つと、右手に持っていた銃で破砕の足元を狙う。
「まだ舞台壊すのかよォ」
ブーツにも鉄板を仕込んでいる破砕にぬかりはない。例えかすっても致命傷ではない。
だが、致命傷にならないほど防御力が高い、そしてその分だけ重いだろうブーツは、攻撃力も高い。
あれの餌食にはなりたくない。
「そうだな、もうちょっと壊そうか」
右手で破砕を狙いつつ、俺はナリアを構える。
少し警戒した破砕をよそに、俺は舞台の外側を走りながら、魔法を展開しながらナリアを撃った。
破砕も俺の友人である。ナリアが長距離用の銃であることを知っている。
俺の使った魔法がなんであるか知らなくても、ナリアが片手で撃つには負担が大きいことは知っている。
だから、俺がナリアの反動に負けて弾道をそらしてもおかしくないと思ったのだろう。
破砕に向かっていかなかった銃弾に、破砕が笑った。
俺はそのまま走りながら、少しの間、銃弾を入れ替えながら待つ。
「いい加減勝負しろよッ」
俺に近づくために、舞台を蹴ったはずの破砕が何かに足を取られる。
取られるというほどのものではなかったかもしれない。しかし、それは確実に計算外で、致命傷と言えるほどの隙を作る。
「接近されたら俺の負けだろ?」
俺はそういって、銃口を破砕に向けた。
破砕が足を取られた…踏んで、少し足を滑らせたのは、木の破片。俺がナリアで破壊し、飛ばした舞台の一部だった。