トーナメントということは、次の相手が大体解る。
「お疲れさん」
「……おい、決着つくの早くないか?」
「俺とおまえの対戦見たいんだと」
どちらが勝ち上がってきても、俺は知り合いとの対戦ということになっていた。
「協奏らしいな」
トーナメントは本当に意地悪な作りをしていた。早いか遅いかの違いだが、何も、初戦を親しい友人、二戦目をちょっと縁のある先輩か相棒。勝ち上がったら三戦目にやはりちょっと縁がある先輩か友人との対戦となっていた。
そう、二戦目は先輩が相棒に非常に私的な理由で勝ちを譲ったため、相棒…良平との戦いになっていた。
「…アヤトリと暗殺者は?」
「正直、あいつが糸にこだわったら負けだな。だが」
良平が画面の隅に映されたトーナメント表をみて、友人たちの戦いが大きく表示された画面を見た。
「…アヤトリは勝つだろうな」
俺は良平と同じように画面の隅にあるトーナメント表を確認した。
勝ち上がれば槍走との対戦となる。
記憶を辿ったあと、友人たちの戦いを見た。良平の言うとおり暗殺者がアヤトリに負けていた。
「天才児と言われた二人か。本当に三年生はあたり年だったんだな」
「そうだな、純生二年生で有名人は、本当のところ俺とお前と早撃ちと人形使いと焔術師くらいだからな」
「暗殺者は?」
「暗殺者は別の学園で三年経験あるだろ」
「それもそうか」
追求は一年間休学して研究に勤しんでいた時期があるので、その休学さえしていなければ三年生だったはずだ。
トーナメントに参加している連中ではキャリアがあるのは青磁と一織だが、双剣も中等部から高等部の編入の際に留年をしている。理由がこの学園にあるのか、本人の都合にあるのかはわからない。
「……よく考えたら、三年生になるはずだった奴らは、青磁以外、試験出題メンバー黒幕組じゃないか?」
「……腹がたつ話だ」
「それは仲もいいはずだよな」
俺と良平は同時にため息をついたあと、二人で転送位置に向かう。
「あー…とりあえず、なんだ、相棒」
「ん?」
「遠慮は無用、だからな」
転送されかけている時に声をかけられたため、返答は聞こえたかどうかわからない。
しかし、俺は、その時ちゃんと答えていた。
「遠慮させてなんかくれないだろ」
転送されたそこは、今度は石の舞台だった。
破砕戦に見せた戦法は、見られていたこともあるが、舞台が石では使いづらい。
木ほど派手に壊れないし、木の舞台と違い、中が空洞になっているということもないからだ。
良平…猟奇はいつもの鉄の棒に早くも武器化魔法を展開し、いつもの武器を持っていた。
「カーニバル初の正面衝突とか言われてると思うか?」
「どうだろうな」
俺がフレドとライカをチェックしたあと、試合開始のブザーがなった。
「展開」
猟奇がそう呟くと、ふわりと何かが広がる感覚がした。結界だ。
「アウトさせられちゃたまらないからな」
ただでさえ、中距離戦闘を得意としない俺が、接近戦を得意とする人間に勝つには、その人間を近づけないことが重要となる。
舞台から落とすというのは、接近させないまま勝つ方法としては理想的といってもいい。
ただ、俺の場合は魔法と違って力押しができないため、舞台から猟奇を落とすにはかなり追い詰めなければならない。
それはあまり現実的ではない。
致命傷を与えれば離脱させられるので、それを実行すればいいのだが、たかだか銃弾がかすめたくらいで…という頑丈な体とメンタルを持った連中と対峙しなければならないので、そうするためには数撃つよりも急所を狙わなければならない。
急所を狙うために、俺は色々な方法を使わなければならないのだが、心理戦というのも大いに利用させてもらっている。
たとえば、舞台の端に行けば落とされて終わりだという考えがあるのなら、追い詰めるようにして、端に行かせ、焦らせ、撃ち落とす。実際に舞台から落ちる必要はないのだ。
だが、猟奇により、その方法は潰されてしまった。
「お前とはやりにくいよ」
付き合いが長いというのもあるが、俺同様ひねくれている部分があるというのもある。
やたらと闘う機会のある一織は、良くも悪くもある意味真っ直ぐだ。
人はできることをできると過信している部分がある。
確かにできるのだが、できるが故に失敗してしまうことも多々あるのだ。
一織は自分自身ができることをよく知っているが故に、ギリギリで勝負してくる。俺の動きをある程度は読むが、俺の方法を潰してくることはない。いつでもほぼ一発で仕留めようとする。ナイフを投げても、それは俺に当たらないことを前提としている風ですらある。
「俺だってやりにくい」
猟奇の声を耳に捕らえながら、ライカを猟奇に二連射し、フレドの引き金をひく。
三つの銃弾は猟奇に届かず落ちる。
結界は舞台の周りにはられたものだけではなかったようだ。
「頭フル活用するような戦い方するのは好きじゃない」
そう言いながら、駆け出す猟奇。俺も走り出しながら、近寄られないように牽制。
牽制のために打ち出された銃弾は簡単に猟奇のサイスに落とされる。
「どいつもこいつも、銃弾弾きやがって」
俺はそう口にしながら、あることが一つ思いつく。
結界によって舞台の外に出ることができないということは、その結界は壁になるのではないのだろうか。
俺は一発結界に向けて銃弾を射出する。
「残念、跳弾はさせない」
「指定したな…?」
「そのとおり」
猟奇が言うとおり、弾が跳ね返るかどうかを確かめるために銃を撃ったのだが、弾は結界を素通りした。
猟奇がニヤリと笑ったような気がした。
人だけがこの結界から出られないようにしたようだ。
俺は、近づく猟奇から遠ざかるように走る。
「このまま追いかけっこしてる間に考えるんだろ?…お前は、考えさせちゃいけない」