猟奇がマジックサイスを振るうと、棒についていた刃は俺に向かって飛んできた。
「どうして、こう…くっそ」
俺は舌打ちをしながらその刃から大幅に距離をとって回避。
真っ直ぐにしか飛ばなかったのがせめてもの救いだが、これがあたったら離脱せざるを得ない。
「跳弾は、結界でできなくても…ッ!」
俺はフレドで牽制しながら、ライカを撃つ。
石の舞台に当たったライカの弾は、猟奇の足元に向かう。
それを予測していたのか、猟奇は鉄の棒になっているそれを振るう。
弾は簡単にはじかれる。
しかし、それだけで攻撃がなくなったわけではない。
その後さらにつづけて、一発、二発。
跳弾、あるいは着弾時間を考えての時間差。
「こっちが近寄れないのが一番痛いんだよな…」
「お前、飛び道具使っておいて!」
鉄の棒が無情にも俺の攻撃を防いでいる間に俺は体勢を立て直しながら走って距離をとる。
もちろん、攻防をしている間にも、猟奇は俺に近づこうとしている。
「範囲がひろいからよくないか」
サイスの刃を再び展開することなく、猟奇は飛び上がる。
空中は、逃げ場がないため狙いやすいにもかかわらず猟奇がそうしたことに、俺は疑問を思い浮かべる。
俺の弾がよけられると確かな自信があるのか、それとも、他の何らかの策が…俺が結論を出す前に、ことは起こる。
「展開」
舞台を囲むようにはられた結界はそのままに、再び結界がはられる。
それは、俺と猟奇を囲う壁だ。
「これで、逃げれる場所は少なくなった」
舞台よりも狭い範囲を囲う壁は、確かに俺の逃げ場を少なくした。
だが、それは猟奇の逃げ場も少なくしている。
俺は猟奇が宙にいる間に弾をすべて入れ替える。
猟奇が俺に向かってやってくるまでの間に、弾を使い切らないために、入れ替えたそれを片方だけホルスターにも戻すと、片方で牽制するように、一つ撃つ。
「賭けに出るか?」
「接近戦というやつをやってやろうかと思っただけだ」
猟奇が言うところの賭けというのは、猟奇が攻撃をしにきたときに、ギリギリでよけ、懐に飛び込み、撃つということなのだろう。
確かに賭けだ。猟奇の運動能力は、俺より素晴らしいものがある。あの舞師と渡り合えるほどなのだから。
俺はその相方や双子と渡り合っているが、それはあくまで接近させないからであって、接近しては、勝負にならない。
俺が猟奇より優っているのは、この姑息だの反則だのいわれている戦法や、頭の回転、先読み、気配読み、気配殺しだ。
俺はウェストポーチから一つの魔法石を取り出す。
猟奇に向けて指で弾く。
それは安々とよけられ、俺は、手に残った銃で攻撃を繰り返す。
走ることをやめた俺は、猟奇が振りかぶると同時に展開といった声を聞く。
棒にはサイスの刃が再びできていた。
俺はそれがやってくる前に、猟奇の懐に飛び込む。
「その程度で、俺がどうにかなると思ってるのか?」
「思ってると思うか、相棒」
懐に飛び込むとすぐ、猟奇はその体制を変える。
予測できていることに反応できない相方をもった覚えはない。
俺は、片手の銃をホルスターに戻し、もう片方の手でホルスターにあった銃をとり、引き金を二回引き、叫ぶ。
「展開ッ」
先に指で弾いた魔法石だ。
「いま、か!?」
その魔法石は猟奇の逃げ場をなくすように、一つの結界を作る。
俺が撃った銃弾は結界の壁に弾かれる。
誰かが作った結界は人間だけをその結界から出られないようにしているようだが、俺のつくった結界にはそんな便利な機能はついていない。
その上、石に入っている力の量の関係で石一個ではれる結界は小さい。
俺の投げた石は遠くまで飛ばなかった。
飛ばないようにした。
魔法石は発動するまで何の魔法が入っているか展開されるかを知っているのは使っている本人のみだ。
その石を弾くときを狙って攻撃系の魔法を展開されれば大怪我をするのは猟奇だ。猟奇ならば、避けると思っていたのだ。
そして、その石は、猟奇を囲う小さな結界を作った。
銃弾を弾き、人を閉じ込める、普通の結界だ。
俺の放った一つの銃弾は猟奇を狙って、もう一つの銃弾はちょっと違う方向へ。
俺は人が避ける方向に向かって銃弾を仕掛けておくこともあるので、猟奇もそれを不思議に思わなかった。
その二つの銃弾は猟奇と一緒に結界に閉じ込められた。
猟奇が、一つを弾いたと同時に後ろの結界の壁から跳ね返る銃弾。
弾いた縦銃弾も前の壁に阻まれ、弾かれる。
弾かれ二方からくる銃弾を避けるのは、その結界の壁に阻まれた小さな範囲では難しい。
だが猟奇は何も悩まなかった。
サイスの刃がひときわ輝く。
それは、猟奇がサイスの刃を強化した証だ。
それを振るうと、猟奇は簡単に俺の結界を破り、俺の攻撃を避ける。
しかし、脱出されるということを考えなかったわけではない。
俺は結界が消えてしまう前に、銃弾を撃ち尽くす。
「クッソ!」
その声とともに離脱していく猟奇の姿を見送りながら、俺は息をつく。
猟奇のサイスの攻撃はモーションが大きい。特に、結界を壊すほどとなると、かなり大きな振りが必要となる。
それを狙って俺が撃ってくるのは承知の上で、猟奇も準備はしていた。
だから、バカ正直に撃った弾は簡単に、サイスの刃をつけた棒の一部に阻まれた。
あんな狭い範囲のもので良くも毎回防御してくれるものだと思う。しかし、毎回やられるからこそ、俺は考えてある。
普通の結界ということは、内部から人や物を逃さないというだけではない。
元来の働きもそれにはある。
そう、外部の攻撃から身を護るために攻撃をはじく。
そうして、弾は消える前の結界に弾かれる。
弾かれた銃弾は、猟奇を動揺させるに事足りた。
猟奇は、俺の銃弾を避けきることはできなかった。