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スクリーンに映し出されたカーニバルの潰し合いは、実に楽しそうだった。
そういう戦法もあるのだなと、感心しながら、戦いたい衝動に駆られる。
しかし、俺はもうすでにアヤトリに敗れてしまった。
「…謝罪」
「いや、いい。謝られたら俺が惨めだろう?」
「……」
頷いたアヤトリはその手に持ったもうひとつの武器を肩に預けるようにして持ち替えた。
それは槍だった。
「猟奇がマジックサイスなのは、お前のせいか?」
「肯定」
猟奇が糸よりもまだ前の武器の方が使えると言っていたが、本当だった。
最初から槍を持っていたアヤトリはその名前に相応しくない動きで、槍を繰った。
「まったく、やってくれる」
槍を持つ相手と戦ったことがないわけではない。前通っていた学園では、むしろそれが大体の相手だった。しかし、槍走と互角に戦えるほどの力を持つ槍使いとやりあうのはそう滅多にあることではない。
この学園で行われた戦闘行為はすべて記憶される。
戦闘の研究をするために、過去の戦闘映像も見ていた俺は、姿こそ違えどアヤトリこそが槍走と並び称させれた槍使いだということを、その槍使いで知った。
「因縁の対決か?」
「…勝負」
槍使いの二人はライバルといっていい関係だった。負ければ次に勝つ、引き分けることも少なくない二人。どちらかが勝ち越すということがないまま、その片方が姿を消した。
それが、アヤトリだったのだ。
アヤトリがどうしてこの学園を一度去ることにしたのかはわからない。主人との出会いだったのか、それともそれ以外の原因があったのかは、俺にとってはどうでもいいことだ。
アヤトリが槍使いであったということが重要だった。
映像で見たよりずっと、その動きは洗練されていて、糸だけを使う人間になったわけではないこと、槍を使い続けていたことに一種の感動を覚えた。
「負けたものは負けだ。勝ってこいよ」
「実行、勝利」
ニヤリと不敵に笑う様は、いかにもらしい笑みだった。
俺は、もう一度スクリーンを見上げようとして、ふと、ある視線に気をとられた。
その視線は、弟のものだった。
いつもの、ブラコンじみたなにかを訴えてくる視線ではなく、何か苦いものを見るようなその視線。
「面倒なこと考えちゃいないよな…」
俺様然と見える外見にそぐわず、意外と思い悩む質である弟のことを考えながら、俺は、その視線を気がつかなかったフリをする。
気がついたと知られたら、余計に思い悩まれることを知っていたからだ。
「あとでちょっと話すか…」
余計なお世話なのかもしれないが。
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