波乱の三年生


二人の友人が俺を見てヒソヒソと聞えよがしに会話をする。
「あの野郎の姑息さには…」
「さすが反則と言われるだけ…」
もう反則と言われることにも姑息と言われることにも慣れたものなのだが、将牙はともかく、良平には言われたくないものである。
「詐欺師にはいわれたくない」
「だろうな」
そして、急に一織が現れることにも俺は慣れてしまっていた。
ただ、俺の話をわざとらしくしていたふたりはびっくりしたようで、二人して小さく身体を震わせていた。
「見ていたんだが、先読みする連中の戦いは意外と早く終わってしまうのだな」
「ボードゲームとかは初手から展開が決まってるともいうし、そういう感じじゃないか?」
一織は、俺の隣でなおも気配を消したまま、首を傾げる。一織も頭のいい人なので、結構俺の手を読んでくるが、さすが会長の兄というか、攻撃がいやにまっすぐなところがある。
おかげで勝利したりしているわけなのだが、身体能力からか、自信からなのか一織は俺の手を避ける、防ぐよりも、潰すにかけているような気がする。それともそういう、あの手この手を潰して絶望でもさせたいのだろうか。そうなると、俺も流石にちょっと堪えるものがあるので、本人にそれを尋ねたことはない。
「なんというか、本人たちは色々やっているんだろうが、結果だけみると、理路整然としている」
「ああ、それは…その場じゃないと伝わらない心理戦だな」
頷く一織の気配がないのに、ようやく慣れたようで、硬い表情をしていた友人二人がその表情を苦いものへと変えた。
「もう、最初の心構えから負けることもあるからな。俺ならああするだろう、こうするだろう。みたいな刷り込みが…」
「なるほど。猟奇、破砕。俺はお前たちの味方だ」
急に何を言い出すかと思ったら、気配を殺すのをやめて、一織は良平と将牙と一緒になって非難を始めた。
「刷り込みだといったぞ、あの陰険野郎」
反則、姑息、卑怯などはよく言われるのだが、陰険は初めてだった。
「ほんと、やーね!あの陰険姑息反則!」
奥様方の井戸端会議にでも参加したかのような口調で、相棒が俺をからかっているのか罵っているのか。
陰険な手は使っていないというか、姑息かどうかは置いておいて、反則や本当の意味で卑怯なことはしていないはずだ。どうしてここまで言われなければならないのだろう。
こんな心が折れそうな状態で次の戦闘をしなければならないと思ったら、さらに心が折れそうだ。
俺の対戦相手は、今スクリーンの中で戦っている。
「どうか、焦点先輩が勝ちますように」
将牙がわざとらしく手を組んで祈った。
やめてほしい。
あの執念深い先輩は寮室争奪戦より、俺との再戦をそれはもう、じっくりじっとり執念深く狙っていたらしく、俺がこの競技に出ると知ってエントリーを決めたという噂さえある。
俺もうっかりからくも順調に勝ち進んでしまったから、先輩さえ勝ってしまえば俺は先輩と戦わなければならないわけで、もしそんなことになってしまえば、俺はまた頭をフル回転どころか、脳細胞を削る思いをしなければならない。
将牙の願いが通じたというわけではないが、俺が嫌がっても映し出された勝者はニヤリと笑う。
三年の先輩方は俺をいじめるのが本当に好きなんだ…だからこういうことをするんだ…と俺はうなだれた。
友人二人が悪い表情を浮かべ、友人一人が憐れみの視線を寄越してきた。
憐れみの視線をくれた友人は、確か一度焦点と戦闘時に対面しているはずだ。たとえそれが伝統と化した手抜きの戦闘の最中でも一度焦点の視界に入っている。
お前も狙われてるんだから、その憐れみをいつかかえしてやる。
そう誓う俺であった。負けない。
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