友人に心から負けたくない俺であったが、焦点には勝てなかった。というより、負けもしなかった。
引き分けに持っていってしまったのだ。
「反則野郎、覚えてな」
引き分けた挙句、何故かウキウキとした様子で、それはもうギラギラとした目で俺を睨めつけて吐き捨てた先輩のことはできることなら忘れたい。
焦点先輩はまさに、その名とその名に付随する噂通りの人だった。
狙った獲物は逃さない。逃した獲物は何が何でも捕らえて倒す。
二丁の銃を使って逃げをうつ俺を、今この時点でそのサイレンサーは必要ないにもかかわらず、サイレンサーを付けて走る走る迫る迫る。
この先輩はどちらかというと一織に近いタイプだ。
一織と違うのは武器が銃であることである。
サイレンサーを使っているため飛距離が少々違うが、俺と同じような範囲で攻撃ができる。
近寄らせなければいいというわけでなし、かといって、俺は誰かさん達のように弾を弾いだり、弾道をそらしたりできるわけではない。
先輩のモーションとこう来るだろうなという予測の元、結界をはったり、地面を転がったり、避けてみたりと本当に忙しかった。
そんなこんなであったのだから身も心もボロボロな気分だった。
「……」
帰ってきた俺に今度は一人だけでなく、三人で憐れみの視線を向けてくれたのはいうまでもない。
さて、そんな俺のことは置いておく。…置いておきたい。
俺とは違って、たぶん戦いたかったのであろう青磁の戦闘は、それはもう見事の一言につきる。
ベスト4ともなると、一戦一戦行うようになるおかげで、俺も最初から青磁の戦闘が観戦できた。
「あれほど、槍を使えて、槍を置くのか?」
「置いてはいない。あいつは、二つとったんだ」
珍しく、良平が一織に青磁のことを自慢している。
これはいつもは青磁の仕事である気がするのだが、良平は青磁と違って意味のわからないタイミングで自慢げにしたりはしない。そして、滅多にその様子も見られない。
「その割には使わねぇなァ?」
そういった将牙を良平が鼻で笑った。
「奥の手ってのはとっておくもんなんだよ」
その奥の手を使わねば勝つことができない一織をさすがというべきか、その奥の手を使ってまで戦いたかった槍走をさすがというべきか悩むところだ。
「だいたい、おまえ…アヤトリと仲良くなかったのかよ。三年だろうが、一応」
「ハァ?俺が三年なのと、アヤトリがなんの関係あんだよ」
どうも変装後の将牙は普段以上に口が悪いため、こういったことをいうと小物臭がする。
それ以上に変装後の良平は性格の悪さが全面にですぎである。
「あの槍の使い方でわからないのか?」
鼻で笑う様子があまりにも似合いすぎる。
面をかぶったままだというのに、その様子が本当に様になっている。
「まさか…!アヤトリ…ッ、クソ!システムの変換機能…ッ」
システムの変換機能が優秀すぎて、青磁の前の名前を言えずに舌打ちした将牙にかわり、俺が答える。
「神の槍だったか?」
「大げさな名前だよな」
武器の名前というか、前置きというか。
そのような名前がつくくらいの腕前が青磁にはあった。
神槍(しんそう)。
名前がついても…名前がついていたからこそ、期待され、ハードルを高くされ、進学もできずさらには退学にまで追い込まれた天才児は、その才能を持ったまま、ほかの方面へと伸ばして帰ってきた。
この学園に入るのは、天才と一度呼ばれたのなら難しくはない。しかし、二度目以降、そのハードルは高くなっていく一方だ。
学園で『天才』と呼ばれることは、誉れというよりもただの地獄なのだ。
「とにかく…あいつとは、仲良くないわけでもなかったが…アヤトリだとはしらなかっ…ッチ、システムメンドくせぇな…」
神槍が青磁だとは知らなかったらしい。
それならば仕方がない。
「ああ…なら、知らなくても仕方がないか」
スクリーンでは、青磁が槍をふるいながら、一部の指につけた糸をも操るという器用な動きを見せていた。
槍をもっていないときに比べ、その動きは大雑把で繊細さにかけるのだが、槍走の邪魔にはなっていた。
二人とも槍の腕前はさすがといったところだ。
青磁が良平の犬になってから今まで、青磁は良平との連携、自らがもう一つの武器とした糸、そしてもともと使っていた槍を執拗に修練した。その間、槍走は槍の名手として、武器科の槍使いたちの頂点に立ち、協奏と悪巧みをした。
結果、風紀委員長と生徒会書記という学園側から認められた優秀者の立場にいる。
「だいたい、アヤトリ、付き合いわりぃっつうか、他のことなんざどうでもよさそうだったというか、今もそうだけど違うっつうか」
要因は良平にあるのだが、将牙はどうもそのあたりをうまく言い表せないらしい。
「何か心境の変化でもあったんじゃないか?」
飄々と言ってしまった良平は、そのあたりは話す気がないらしい。
俺も、詳しくは知らないし、青磁もさすがにそのあたりは大事に大事にしているらしく話してはくれない。
俺たちがそんな会話をしているうちに、アヤトリは槍走に槍の切っ先を突きつけていた。
「アヤトリの勝ち逃げだったそうだな」
「勝敗としてはそうなるらしい。アヤトリは学園に負けたんだから、勝ってる槍走の方が、勝ち組だとか言っていた気がするが」
神槍が学園を去った時分は本当に色々あったらしく、二年生が三年生や一年生と比べられ不作と言われるように、三年生も優秀ながら波乱の三年生と言われている。
ちなみに、一年生は優等生の一年生だそうだ。
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