魔法機械都市の、こーくんが就職した研究所は人間の細胞を研究している機関がある。
そこが、俺の生みの母でありこーくんの母でもある人が働く場所だ。
生みの母がこーくんを生んで二年ほどあとに、俺を胎内にいれて生むはずだった人が事故死した。生みの母が茫然としている間に俺は育ちすぎ、結局、俺は試験管でそのまま外に出られるようになるまで育つこととなった。
だが不幸というのは連続するものらしい。
大変不幸な事故が起こってこーくんと俺を同時に失いかけた。試験管の中でなんとか生きていた俺と、死にかけていたこーくんを培養液につけ、遺伝子の交換をしたのだ。
こーくんは俺と違って人の胎内より生まれているため、俺よりも免疫力は強かった。
俺はこーくんの細胞をもらうことにより、試験管で侵された病疫に勝った。
また、こーくんは交通事故により欠損がひどく、その欠損を補うためにクローンを生成するには時間が足りなかった。
こーくんの再生能力を促すため、常に培養液に浸かっているがために、通常より再生能力が高い俺の細胞を取り入れることにより、時間を稼ぎ出し無事だった。
両者ともに、同じ人間の遺伝子を持つとはいえ、他人だ。他人の一部を外敵として処理し、拒否反応を起こすというのはよくあることだ。
そうならないためにも、俺とこーくんの遺伝子は少々弄られている。
その結果、オマケとして俺とこーくんはそれぞれの『感覚』が広がることとなった。
俺は気配に敏感で、視野が広い。
こーくんは魔法に敏感で、魔法感覚器官というやつが鋭い。
そんなこんなでよく考えなくても仲良し兄弟であるはずの俺とこーくんは、ちょっと複雑な事情で戸籍が違う。
俺を胎内にいれるはずだった人の戸籍が俺の本戸籍で、俺はそちら側に引き取られ、学園なんかのシステムに強い、俺を生むはずだった人の妹さんに育ててもらった。
ご近所さんだし、俺が戸籍をおいている方の親族としても、娘の忘れ形見が傍にいるほうが嬉しかったらしい。
そんなわけで、俺には三人ほど母がいる。
生みの母がふたり、育ての母が一人。
ちょっと考えたら女の人ばっかりなわけだが、三人ともキャリアウーマンで、こーくんと一日中悪戯して回ったり、近所のガンショップにいるほうが多いという子供時代を送っているため、そんな気がしない。
「多くはないねやけど、そんな少なくもないねんで試験管ベビー…」
「試験管ベビーって、自分で言っちゃうのな」
良平にそんな話をぼやく。
結局、会長を追いかけるでもなく、ため息をつきながら食堂に向かった俺だったのだが、一織に俺の生い立ちを話しているあいだに良平がやってきて、もう一度良平に説明するという二度手間をしてしまった。
良平の反応はというと、あっそー。みたいな感じだった。
やはり会長の反応の方が珍しいんじゃないだろうか、一織も反応が薄いし。
「で、会長が逃げたって、それは逃げるだろ。おまえ、そんな脳天気にしてるのに、そんな過去が?みたいな」
「え、やって、過去いうても、俺の物心つくまえやで。そうなってしてこうなっとるんやし、なんかそれがトクベツとかトクベツとも…しかも、別に人に言うことと違うんやない?やって、普通に友人がどう生まれたとか知らん人のが多いやんな」
「あー…俺のオヤジが傭兵とかな」
「へー…って、だから、腕っ節強いんか、良平」