おー。と気のない返事をする良平。両親の仕事とか、その他生い立ちとか、ちょっと関わる範囲でなければまったく関係ない。
だからこそ気にすることはないし、まして寮暮らししかいないこの学園では両親がどうとか言ってる暇があるのなら、自分の周りの環境をいいものにする方がいい。
「でも、お前、俺とかは例外だろ。オヤジが色々行ってるせいで価値観がちょっとちげーし、母親は母親でぼんやりしてるくせにオヤジ選んでるあたりでやっぱちげーというか。ま、お前が試験管から出てきてるとか言われても、なんかこう、実感ねーってのもあるけど」
だって、変わんねーだろ?と良平が、焼き魚と格闘しながら言った。
言ってることはもっともで、ちょっと感動的な部分すらあるというのに、焼き魚と格闘されながら言われたら、こちらもまったく実感がない。
もうすでに焼き魚の骨を綺麗に取り除いて、魚の身だけを食べながら、一織も頷いた。
「十織はあれで繊細だから…というより、周りを気にしすぎて育ったというか…普通であるということにこだわりがあるというか。俺のせいなんだが」
「ひぃとかちょっと家が特殊やねんもんな」
「いや、俺としてはあれが普通…ああ、そうか。キョー、それだ。お前が俺の家が特殊だというのと同じもんなんじゃねぇか?」
なるほど納得である。
「俺の場合は生活環境に、人がいうところの特殊があったから、人と比べることが容易で、人とは違うんだなとわかり易いんだが、お前の場合は生まれるまでの話だから、本人としても実感薄いし、知らないやつらのが多いんだろ?」
「そやね。学校でこうしたら子供って生まれるんですよーってきいて初めて、あ、それが普通やねんな。ふーん。みたいな。うちとこ、どうやってうまれたとかまったく隠さへんかったからな」
俺は俺で薄いが甘辛な肉で野菜を挟んで食べていたので、どうも、イマイチ何か起こったという気にならない。
「何よりお前のその態度みてどうこうしようというほど繊細な心持ちがない」
良平が一織の言葉に頷いた。
そのあと良平は焼き魚の解体に失敗したようで、一織の綺麗にとれた骨を見て自分の皿をみていた。
「せやけど流石に、こーくんと兄弟やったんはなんや、言い出しづらいみたいやねんけどな…」
「え?兄弟なのか」
「…俺はアレから聞いていた」
まだ両母から、こーくんと兄弟だということはきいていない。
俺がこーくんと兄弟だと気がついたのは結構前だ。両母が言いにくいのは俺とこーくんの戸籍にあるのだろうが、こーくんが兄だと言われても俺になんの拒否があっただろう。
どんなに憎まれ口を叩いても、こーくんは俺の兄貴分のような幼馴染なのだから、母たちより過ごした時間が長い分、こーくんが本当の兄だったのかやったねと思うだけだ。
結婚とかになると、生活環境が変わることもあるし、両親がどうにかこうにかということもあったのだろうが、そういうことがないので、言われたところで何もない。
「せやけど、俺としても今更、こーくん兄弟やと言われてもなぁ。特になんか変わるわけでもないわけやし?普通なんやけどな。まぁ、置いといて。問題は会長や…今後普通に接してくれると思う?」
「普通って…今までどおりできるだけ接触しない形とかは一緒なんじゃねーの?ん?変わんねーんじゃね?」
よくよく考えたら、会長は俺とあまり接触なんてしたがらない。
「だから、俺にしとけばよかったのに」
「なんやだんだんストレートな告白になってきてもうてるで、ひぃ」
しれっとした顔でコップに入った水を飲む一織は、俺の言葉など聞いていないふりだ。
会長の態度を気にするなというのは、俺には無理な話なので、気になるが、一織や良平の態度は俺にとってちょっと心地がいい。
会長みたいな反応だったら、気にしていないことでも気になってしまうものだからだ。