日常っていうのはつつがなく、停滞しているようでしっかり進んでいる。
時間ってやつは無駄を許さない。
一分一秒とて進まないことを望まない。
つまるところ、何をしてなくても時間だけはしっかり進んでしまうわけだ。
「叶丞くん、専攻は決めた?」
「えーあー…なんやこれ以上忙しなるのもなーっとちょお、おもてまして…」
「なっさけないなー!良平くんなんか、さっさと専攻決めちゃったのに、君は専攻に迷って体育祭も終わって文化祭がこようというときに、この調子!」
俺は毎日放課後先生になじられながら、射的をしている。
「せやかてあれですよーこうやって自分のことするだけでも精一杯というかー」
「うんうん、君の成績はボクも熟知しているつもりだよ?実技も素晴らしいけど、座学とかも素晴らしいと思うんだけど、ねぇ?」
「いや、ねぇ?言われましても」
的がバラバラに、ある一定の範囲で時間差を感じさせながらたっていく。
すべてが時間差で出ているわけではなく、一緒に出てくるものもあるのだが、まるで時間差があるかのように見えるようになっている。
それをスコープで見つめたまま、思った通りに引き金をひく。
「せやかて、魔法機械学とか、なんやもうええですし。独学でええかなーって」
「だったら、魔法を学ぼう?」
「テストせなアカンですやん。それがちょっーと、お時間いりますやろー?そういうの考慮するとですね」
出る時間がバラバラなら、見えなくなる時間もバラバラだ。
油断をしていると、一発も当たらないまま的がなくなってしまう。
『パーフェクト』
無機質なアナウンスが耳に入り、漸く俺は話しかけてくる教師に顔を向ける。
「これ以上は無理やなぁ…と、限界を感じるわけです」
「そんなに簡単にパーフェクト出しておいて」
「簡単ちゃいますよ。レベルわりに低いのですし」
二つのことを同時にするということは、簡単ではないが、考えるより難しくない。
それはいわゆる、ながら作業というやつだ。
それがどちらかにどれほどの集中力が必要かによって、どちらかの作業能率が変わる。
俺は先程から、教師にもうひとつの専攻を早く決めろと迫られ、受け答えをしながら銃を撃っていたというわけだ。
「一年生の中層ランクの子たちが泣いちゃうんだけど、これを低いレベルっていうの…」
「いやぁ…何いうてますの、上の連中はこんなん朝飯前ですやん」
「その通りだけど。でもねぇ。こんなにしっかり受け答えしながらガンガン当てていくのは、二年生では君と佐々良くんくらいだよ」
今年も体育祭の射的で優勝していた人間と一緒にされたくないものである。
「それでね、一応教師の勤めとして毎日毎日文句を言ってみたんだけどね、私としても君みたいな優秀な生徒が他のとこに取られるのは、実はちょっと、嫌でね」
「なら、魔法学とか勧めんといてくださいよ」
担任教師はてへへとわざとらしく笑って、俺が使っていた射的ブースの端末を操作して、俺と交代して射的を始めた。
レベルは俺がやっていたものより一回り高い。
「君にはもう一つグレードの高い教育を受けてもらうことにしたよ!」
そう言われて、俺は教師が撃ち落としていく、というより、破壊して落ちていく的を眺めていた。 教師が使っているのは、マシンガンだった。
「それ、なんや決定事項みたいに聞こえよるんですけど!」
「決定事項だよ!」
いい加減、この学園は生徒に対する無茶をやめるべきだ。
しかし、決定したからにはなかなか覆らないのがこの学園である。
的が出る時間なども短いし、速いのだが、あっという間に終わってしまった射的は再び『パーフェクト』を無感動に伝える。
「…というわけで、珍しく書状を持ってきたんだよ。君は明日から三年生の銃選択者に混じってサバイバルしてね」
つい先日、どこかの先輩に『覚えていろ』と言われたばかりだというのに、タイミングがいいというか悪いというか。
「もちろん、二年生の授業にも出れるだけ出てね!」
「……ダブル専攻いうより、ダブり専攻ですやん…」
「うまいこというねー」
俺は手にもっていた銃をホルスターに収めて頭を抱えた。
教師に渡された書状には、三年の授業にでることを許可すると至って簡潔にかかれて、理事長や学校長のサインがあった。
「大丈夫だよ。将牙くんや伊螺くんもやっていたことだから、君もできるよ」
「あいつらあれですやん。三年生ですやん」
「うん。私たちをハラハラさせて、我が道を行く三年生だよ」
「それと同じ扱いされたと思うと、なんや、俺、可哀想ですやん」
再び、えへへとわざとらしい笑みを浮かべたあと、担任教師はこう付け足してくれた。
「二年生の有名な子達はハラハラはしないけど、質のわるさじゃ、かわんないよーぅ」
三年生と一緒にされたと知ったら、みんな嫌がるに違いない。
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