よくよく考えずとも、俺が会いに行かなければ生徒会長に遭遇することなどそうないわけだ。
夏休み前や近頃はやたら接触していたような気がしていたのはたまたまで、魔法科の人間と協力して何かをするには、コンビで戦闘でもしない限り、そうそうないのだから。
俺には一応コンビ戦闘の相棒がいるわけであるのだが、その相棒も魔法科の授業ばかりに出ている魔法使いというわけでもない。
生徒会長…焔術師と授業が一緒でない限りは、その様子を尋ねても返事がかえってくるわけでもない。
相棒である良平は、確か、一織と会長と何か研究をしていたはずなのだが、最近は文化祭前ということで、あまり会うことができていないという。
一織はなにかといっては食堂で会うのだが、会長は昔から食堂であまり見かけない人なのである。
生徒会には生徒会専用席なるものが食堂にあるためだ。
爽やか副会長は生徒会専用席に行く前に食券で料理を買っていたため、よく見かけることができた。
なんでも、ご家庭の事情で副会長はあまり、金銭をあまり持っていなかったらしい。特別ブースではウエイターが運んでくれるということでなんでも割増料金なのだ。
「会長とお話するにはあれやんなぁ…直接部屋行くか、生徒会室にこんにちはするか、授業中に突撃するか…」
「生徒会室にこんにちはが一番妥当じゃね?協力してくれそうな一織がいるし」
「そうだな、協力してやらないことはない、が」
「「が?」」
夕飯を食堂で暖かく囲みながら、俺と良平は声をハモらせ一織を同時にみた。
一織は目の前でナイフを手の上で一回転させると、俺にその切っ先を向ける。
「十織が俺さえ、避けている」
そのあと、綺麗に鉄皿の上にのったスペアリブをあっという間に骨と身に分けると、一織はナイフの代わりにフォークを持った。
「うーわーなんやもう、生徒会室に侵入して背後から不審者よろしくやってきて、説明するしかあらへんやん」
「声が聞こえた瞬間に通報されて風紀に連行されるぞ、不審者よ」
そう言ってくれた良平は先日のリベンジなのか、また焼き魚を身と骨に分けるのに苦戦している。
「風紀といえば最近、青磁みいひんのやけど」
「書記に付き合わされてるみたいで、この前、俺の部屋でぼやいてた」
「珍しなぁ…良平に青磁がぼやくん」
俺はピラフの残り少ない具をスプーンですくうことに終始しながら、つぶやいた。
「甘えてきたから追い出しておいた」
「……可哀想に…」
あっという間に料理を食べてしまった一織の皿を、また良平がちらっと見た。どうやら今回も魚の骨は綺麗に取れなかったようだ。綺麗に骨のみになっているスペアリブに羨望の眼差しを向けていたようである。
「せやったら、手紙でもかけいうことかな」
「……?携帯端末は?」
一織がきょとんとした顔をした。
俺は未だにスプーンに収まらない最後の具を皿を斜めにしてどうにかスプーンに転がそうとしていた。
「まだ正体バレとらへんかった時にな、連絡先、知っとったんやけど…拒否されてん」
「おまえ、もう、会長のこと諦めろよ」
「だから…」
「いやいや、ひぃ、言わさへんで。もうちょっ…と慎ましやかになろうとか思わんのかいな」
漸くスプーンに最後の具を載せたところで、一織が心底不思議そうな顔で首を傾げた。
「は?」
「慎ましやか…」
「ハ?」
最後の具を食ったあと、スプーンを皿に静かに置く。
「あーうん、わかったから手加減したってぇや」
「そうか、押してダメなら引いてみろか…」
「そうそう、押してダメならって、ちゃうわ」
「おまえら、もう付き合っちゃえよ…」
魚の骨がうまくとれず、身が散らかってる人に言われたってそんなことにはなりませんよ。