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日常に埋没していくものがあるように、日常の積み重ねが全てになるものがある。
毎日毎日、叶丞に告白しているようなものである一織は、それでも一度も『好き』だとか『付き合う』だとか言ったことがない。
決定打を与えられることを避けているというわけではない。もはや、それが一織と叶丞のコミュニケーションなのだと、俺は知っている。
それは、一織の諦めと叶丞と友人として付き合っていくという決心だ。
叶丞の生まれを知って以来、態度が変わらないようで変わってしまった十織に気をとられている叶丞は気がついているのかいないのか、相変わらず、以前と同じような態度、反応で、一織に接する。
「なんや甘えてしもてるわ」
ぽつりと、呟いたのを聞いた。
気がついているのかもしれない。
叶丞にとって恋愛は、生活をしていく上で、重要度を占めない。
少し気になることではあるのだが、自分が進むべき道の弊害となるのなら切るし、どうしてもと欲するものでもない。
人生を楽しむための、少しのスパイスくらいに思っている。
だからこそ、十織とはつかず離れず、すげなくされても平気な顔をしていた。
今でも、それは変わらず、平気な顔をしている。
ただ、十織のことは一織に甘えなければいけないような事象であったのだ。
「それなりに気になってるらしい。…そっちはどうだ?」
「十織はまったくダメっすね」
槍走の相手をする傍ら、風紀委員長という立場もあって会長である十織とは接触する機会も多い青磁が、ゆるく首を振った。
「毎日何かしらミスしてます」
「ミスすんの珍しいの?」
「はい。一織が割と完璧にこなすんで、それもあって」
十織はやたらと一織に憧れを抱いている。
一織が、ものごとに完璧を求めるのは『魔法が使えない』ことによるものが強い。魔法が使えなければ人として見てもらえないような家庭で育ったのでは、それ以外のことを努力したところで見向きもされないであろう。
しかし、それ以外のことを怠ると悪し様に言われるのも、ご多分に漏れないのだ。
「あーやだやだ。早くこういうのおわんねーかな」
「…伊螺の方もゴソゴソしてるんで、当分は…」
「伊螺って舞師だよな?面倒くさそうな…ああ、そう思えば叶丞が三年の課程受けることになったらしい」
「トラブルに巻き込まれる奴っすね…」
当分は、叶丞の文句が聞けそうである。
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